お問い合せ

田中角栄「上司の心得」2-⑬

●「気に入らない相手」とも、全力で向き合う勇気があるかどうか

 

人が生きていくうえで、避けることが難しいのが〝しがらみ〟である。

感じで書けば「棚」となり、転じてせきとめるもの、まといつくものと

いう意味がある。

その〝しがらみ〟の中には、時に自分の足を引っ張る敵もいる。

しかし、田中角栄は、「アイツは嫌いだ」と背中を向けてばかりいるよう

では、とても人脈の裾野は広がらないとしている。

次のように言ったものである。

「気に入らない相手でも、全力で向き合ってみることだ。これで、やがては

信頼関係が生まれてくる可能性も出てくる。ダメな相手、嫌いな相手でも、

突き放して土俵の外に出してしまう必要はまったくない。

『よう、元気か』と声もかけられるときもある。いつの日か、仲間になれる

チャンスも生まれるということだ」

筆者は若い頃から、毎日新聞政治部記者出身でテレビ・キャスターとしても

活躍した政治評論家の故三宅久之と、親しくさせて頂いていた。

三宅は右も斬るが左も切るなど、バランスの取れた発言、物の見方をする

人物であった。時に、田中角栄ならびに「数は力」で押す田中派を、

〝辛口〟で評することもあったのである。

その三宅から、生前、昭和60(1985)年元日の東京・目白の田中邸での

新年会に出かけたときの、こんな話を聞いたことがある。

「その日の田中邸は、政治家はもとより高級官僚、財界の歴々、新聞・

テレビ各社の幹部から、新潟の支援者、田中家との私的なつながりのある

人々などでごった返していた。私は早坂(茂三)秘書に挨拶して帰るつもり

だったが、座敷にいた角さんが私を見つけ、『あがれ、あがれ』と声を

かけてきたんだ。で、折角だから、ちょっとだけと座敷にあがると、

角さん、自分のそばに来いという仕草をし、『何か飲むか』と酌をしよう

とするんだ。一升瓶を見ると、〝越山・田中角栄の酒〟とラベルの貼って

ある吟醸酒だった。しかし、さすがに私は言った。『いや、手酌でやり

ます。しょっちゅう悪口を言ったり書いたりしているのに、お酌を頂く

わけにはいきません』と。

すると、すかさず角さん言ったね。

『評論家は、悪口を書くのが商売だ。気にするな。政治家は悪口を書かれ

るのが仕事じゃないか。さぁ、やれ』と、さらっと言うんだ。

参ったね、あの懐の深さには」

 

● しがらみ(柵/×笧)

 

引き留め、まとわりつくもの。じゃまをするもの。「世間の―」

 

● 歴々

 

地位の高い立派な人の集まり。 「歴々」に丁寧の「お」をつけた形だが、

「お」をつけずに用いられることは稀で、もっぱら「お歴々」の方言で

用いられる。

 

● 仕草

 

 何かをするときのちょっとした動作や身のこなし。

「なにげない―が印象に残る」

 

● 懐の深さ

 

どれだけ深いかという度合いのこと、すなわち、度量が広くて物事に

寛容や理解を示すことができるという性質をどれほど備えているかを

意味する表現。

 

 

 

この続きは、次回に。

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