実践するドラッカー[思考編] ㉘
A lesson from P.F.Drucker
∵ 強みと弱み
大きな強みを持つ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。
山あるところには谷がある。しかもあらゆる分野で強みをもつ人はいない。
人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。
『経営者の条件』—p.103
強みと弱みは、表裏一体です。例えば、こんな感じです。
・分析力に優れている人
過去に起きた同種の事象に対処するときには強みになる/未来に起こる
新種の事象に対処するときには弱みになる。
・柔軟性に優れている人
マニュアル以上を求められる局面では強みになる/マニュアルどおりを
必要とする局面では弱みとなる。
・共感性に優れている人
人の立場で物事を考える局面では強みとなる/公平なジャッジを求めら
れる局面では弱みとなる。
誰にでも弱みはあり、それを認めるのは辛いことです。しかし、弱みを
克服しようとするのは時間の無駄です。私たちは、もっているものでしか
成果をあげることはできません。自分を最高に生かす方法は、できること、
強みに集中することです。ただし、弱みと、「苦手なこと」「やりたく
ないこと」「従いたくないこと」は別です。
マナーやルールの尊重といった社会常識については、すぐにでも対処
すべきです。
A lesson from P.F.Drucker
∵ 弱みを知る
強みを伸ばすということは、弱みを無視してよいということではない。
弱みには常に関心を払わなければならない。しかし人が弱みを克服する
のは、強みを伸ばすことによってである。
『非営利組織の経営』—-p.238
弱みを改善しようとすることは、時間の浪費です。
ほとんどの場合、どんなに努力しても強みにまで高めることはできない
からです。時間は有限であり、より効果のあがるところへと資源を使う
ことは当然といえます。
唯一改善すべき弱みがあるとすれば、強みを発揮する際に著しく脚を
引っ張る場合だけです。しかしこれも、克服しようとせず、ある程度の
レベルで手を打つことが大切です。無駄を避けるためにも、自分の弱みは
何かを、具体的に、きちんと認識しなければなりません。
この教訓は、ドラッカー少年が身をもって体験したものでした(『傍観者の
時代』)。
「ピーターの悪筆は、直る見込みはまずありません」。
小学校四年のとき、担任のエルザ先生はドラッカー少年の父にきっぱり
言い渡しました。しかし、このように続けたのです。
「ピーターは身につける唯一のことを身につけられそうにないんです。
字が上達する見込みがないのに、五年生としてここにあと一年いても
時間の無駄づかいにすぎません」
これは、上級の学校(ギムナジウム)への飛び級の薦めでした。
強みや得意分野を見極め、伸ばすことで、弱みを意味のないものにする
という、生涯の教えをここで得たのです。
卒業して三○年以上経ったある日、ドラッカー教授は文章をタイプライターで
したため、署名だけを自筆にした手紙を出しました。エルザ先生からの
返信には、こうありました。
「あのクラスには、私がしくじった生徒が二、三名いました。あなたは
その一人のピーター・ドラッカーですね。判読できる字だけは、私から
学びとる必要があったのですが、とうとう学ぶことはありませんでしたね」
時間は限られています。強みに時間を費やし、成果をあげることを常に
意識しましょう。
この続きは、次回に。