実践するドラッカー[行動編] ⑳
A lesson from P.F.Drucker
∵到達点は、最初の設定次第
基準は高く設定する必要がある。(中略) 基準を低くスタートすれば、
やがて高くなるということは決してない。「ゆっくり」と「低い」は
意味が違う。(中略)
その基準は高く、目標は野心的でなければならない。しかし達成可能で
なければならない。少なくとも相応の能力のある者には達成できる者で
なければならない。
『非営利組織の経営』—-p.131,p.133
一○○○メートルの山を目指した人が、気づいたら富士山の頂上にいたなんて
ことはありえません。到達できる高さは、最初の設定によって決まります。
オリンピックで金メダルを取る、甲子園で優勝する、どちらも初めにそう
決めたからこそ、実現できたわけです。
挑戦的な目標が自己の成長を促します。
生産性の目標を「毎年一○%上げる」と設定するのと、「三倍にする」
のでは、発想や工夫の幅がまるで異なります。既存の手段の延長線では
なく、思い切りストレッチして考えれば、新たな手段を思いつきます。
挑戦目標の最高峰は「完全を求める」ことでしょう。
生涯手の届かないものであることは明らかですが、そのことを理解して
なお、完全を目指す人がいます。作曲家のヴェルディがそうであり、彼の
言葉に触発されたドラッカー教授がそうでした。
完全という基準の前では、常に自己反省する機会が生まれます。
ドラッカー教授は「知的放漫」、もう十分だという心の状態を戒める言葉を
よく口にしますが、「まだまだ」「次こそは」という姿勢こそが、成長の
原動力です。
教授いわく、目標とビジョンを追求することは、老いることなく成熟する
コツです。
コラム あきらめなければ実現する
「優れたアイデアといえども、そのほとんどは大きな成果をもたらさない。
それどころか、はるかに多くが失敗する。だから狙いを高くしなければ
ならない。一つの大きな成功が九つの失敗を補わなければならない」
ドラッカー教授は、最高を目指さなければならないことの理由をこう
述べています。
これはイノベーションや事業に限らず、個人についても同じです。
国内で勝ち抜いて、オリンピックの舞台に立てても、表彰台に上がれる
わけではありません。しかし、最初から金メダルを目指さなければとれ
ないことはたしかです。
ファーストリティリングの柳井正会長兼社長は、もっと理想をもって自分に
期待するよう、強く勧めています。たとえ最初はできなくても、「こう
なりたい、こうできるようになりたい」という目標をもって最後まで
あきらめなければいつか実現する、ということです。
高い目標を掲げるには、目線を高くしてくれる機会を探すことが一番です。
P&Gのアラン・ラフリー、インテルのアンディ・グローヴ、マイクロ
ソフトのビル・ゲイツ、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・
ウェルチ、リーダーシップ論の大家ウォレン・ベニスといった有名人から、
実際にコンサルティングを受けた経営者、授業を受けた受講生まで、
ドラッカー教授に出会った人々はみな、「目線を高くしてくれた」と
いいます。
ドラッカー教授にもはや会えないことは残念ですが、本を読むだけでも
弟子入りはできます。線を引きながら読めば、思考を刺激されることは
間違いありません。そしてさまざまな経験を積めば積むほど、教授のいう
ことがより深く響くようになります。
この続きは、次回に。