「人を動かす人」になれ! ㊼
51.中途採用者の意識改革のやり方
急成長を続け、慢性的に人材不足のわが社は、即戦力として中途採用者に
並々ならぬ期待をかけている。だが、中途採用者には前の会社のカラーが
深く染みついている。前の会社とわが社とのギャップが大きければ大きい
ほど動かしにくくなるわけであるが、普通はこのカラーを取り除くのに、
勤めていた年数の倍の時間を要する。つまり、五年勤めていたなら一○年、
一○であれば二○年かかるということ。しかも、完全に前の会社のカラーを
取り除くことは不可能である。したがって、経営不振に陥っていたり、
沈滞ムードが漂っていた会社に永く勤めていたような中途採用者を教育し
直すというのは非常にむずかしい。
こうした経営不振や沈滞ムードに我慢できずに早々と飛び出してきたと
いうのであればまだしも、倒産、あるいは倒産寸前まで勤めていた人間は、
そうした社風に蝕(むしば)まれてしまっていて、使いものにならないケースが
ほとんどだ。
そんな倒産会社から再就職してきている連中に共通しているのは、会社が
倒産したことと自分はまったく関係がない。すべての責任は経営陣にあって、
自分たちはむしろ被害者だと考えているか、そう思いたがっているかの
どちらかだということだ。そんな社員を呼んで話を聞いてみると、こんな
会話になる。
「なぜ、前の会社はつぶれたと思うか」とわたし。
「前の社長が遊び好きで、週に一回は平日にゴルフ。夜は連日飲み歩いて、
会社に出てくるのは決まって昼前。部課長連中も何かといえば会議。
その会議でも肝心なことは少しも決まらないみたいで、わたしの上司も
ほかの課長の悪口や文句ばかりいっている。それが原因だと思います」
「ところで、君は一生懸命仕事をやっていたのか」
「自分ではやっていたつもりですが、昇給率も低いし、ボーナスも雀の涙。
上司からは新規開拓の指示がありましたが、こんな状態ではやる気には
ならないんです」
わたしは、前の会社が倒産した最大の原因は経営者にあるが、やる気を
なくしていた本人にも責任の一端があることを、わかるまで根気よく話
して聞かせる。これをやらないかぎり、倒産会社に勤めていた中途採用者は
即戦力どころか、ほかの社員の足を引っ張る存在になりかねない。
このように、中途採用者は会社にとっては両刃の剣。
一歩誤ると返り血を浴びるかも知れないという認識も必要である。
● 蝕(むしば)む
病気などで、からだや精神を少しずつ損なう。
「大気汚染が健康を―・む」「心が―・まれる」
● 雀の涙
ごくわずかなもののたとえ。「―ほどの退職金」
● 両刃の剣
両方に刃のついた剣。 相手を切ろうとして振り上げると、まず自分を
傷つける危険があるところから、相手に打撃を与えると同時に、こちらも
それなりの打撃を受けるおそれのあること、また、役にも立つが、逆に
危険をも招きかねないことのたとえ。
この続きは、次回に。