「人を動かす人」になれ! ㊽
52.海外で人を動かすポイントは、成功報酬をケチらない
日本電産を創業した一九七三年から翌年にかけては、オイルショック後の
不況で商品はだぶついて価格もダウンした。そのうえに信用不安が重なり、
いくら熱心にアプローチしてみても、社歴も、知名度も、信用も何もない
新参者に仕事をくれるような会社はなく、門前払いを食わされるばかり
だった。創業して半年くらいは仕事らしい仕事は皆無。居ても立っても
いられなくなったわたしが、止むを得ずとった苦肉の策がアメリカに
渡って注文をとってくることだった。
国内ではまったく相手にされなかったわが社であるが、何度目かの欧米で
まずスリーエム社からの大量受注に成功した。
さらにアメリカ最大の送風機メーカー・トリン社との取り引きが成立する
など、日本電産の第一歩はアメリカから踏み出したことになる。
一九七四年一○月には現地に代理店を置き、七六年の四月にはミネアポリス
の郊外にあるセントポール市に現地法人・米国日本電産株式会社を設立
したという経緯がある。以来、アジア、ヨーロッパへと拡大し、関連会社
まで含めたグループの海外の従業員は約二万五○○○名を数える。
そうした経験からいえば、スパッと頭を切り替えることさえできれば、
海外、とりわけアメリカで人を動かすのはそれほどむずかしいことでは
ない。雇うときに、「これだけの働きをすればこれだけのペイをする。
反対にできなければ解雇だ」と宣言しておけばよい。
アメリカ人は一人一人が自分なりの思想を持っているので、辛抱とか気力や
気迫といった精神論はまったく通用しない。成功の報酬は当然お金。
これをケチると優秀な社員ほどさっさと会社に見切りをつけて出ていって
しまう。つまり、終身雇用を前提とした日本では賃金に対する考え方は
「細く長く」だが、アメリカは「太く短く」だと考えればよい。
また、「今回これだけの働きをしたのだから、オレをマネージャーにして
くれ」といったように彼らはストレートにものをいってくる。だから、
こちらも日本のように、相手の気持ちを察してとか、周囲に充分な根回しを
してからといった気配りはほとんど必要がない。
アジアの国の人たちは、アメリカと日本とのちょうど中間、ドライさと
ウエットさが半分半分ぐらいの感覚で、日本人にとってはアメリカ人より、
アジアの人の方が理解しやすいと思う。
わたし自身は、アメリカ流の方がはるかにわかりやすいし、やりやすいと
考えているが、好きなのは深みがある日本流の人の動かし方だ。
● 新参者
新たに仕えた人。 また、新しく仲間に加わった人。
● 門前払い
「門前払い」は、訪ねてきた来訪者に全く取り合うことなく追い返す事を
意味します。また、江戸時代には、宿を持たない犯罪者を奉行所の門前
から追い払うという意味でも使われていた言葉です。2021/06/06
● 止むを得ず
しかたがなく。どうしようもなく。止むなく。「熱が出たので―早退した」
● 苦肉の策
敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。
また、苦しまぎれに考え出した手立て。
苦肉の謀 (はかりごと) 。「―を講じる」
この続きは、次回に。