「人を動かす人」になれ! ㊿+28
83.まず組織ありきで人は動かない
「まず組織ありきでは人は動かない、余分な人ありきでは組織は動かない」
というのが、わたしの人と組織に対する考え方である。
「まず組織ありきでは人は動かない」の方から説明していこう。
わが社の成長に拍車がかかりはじめたのは、創業一○年目の一九八二年
からである。八二年度の売上は四一億円だったが、八九年度にはその
一○倍強の五○○億円を突破した。当時、工場は常時増設を繰り返して
いたが、それでもフル稼働。そこへ新たに大量注文が入ると、既存の工場
ではとても間に合わず、注文を受けてから工場を建て、設備や機械を発注
する。技術者もこの工程に何名、あの工程に何名足りないから大急ぎで
探せといった具合だった。
いまになって当時のことを振り返ってみると、みんなもよくやってくれた
ものだと感心する反面、背筋の寒さが走る。たしかに勢いがあるときには、
多少の無茶も通ってしまう。ここまでは無我夢中で駆け抜けてきたが、
まず組織ありきのやり方では、いずれ破綻してしまう。
こう考えたわたしは、日本中がバブル景気に浮かれているこの時期を
あえて選んで、組織先行拡大路線から人の成長に合わせた組織づくりへと
路線変更を行った。当時の売上高の推移を見ると、九○年度から数年間は
ほぼ横這い状態で一進一退を続けている。そして、このインターバルが
見事に功を奏した。国内の景気が低迷しはじめ、不況がどんどんと深刻化
していくなか、わが社は元の成長を取りもどした。いやそれをはるかに
上回る勢いがつきはじめた。今回の成長とかつての成長との違いは、
しっかりと地面に足がついているということである。
ちなみに、九三年には六○○億円だったグループの売上が、九四年には
七三○億円、九五年には八六○億円、九六年には一○○○億円を超え、九七年
には二三五○億円となった。
次に「余分な人ありきでは組織は動かない」というのは、組織のなかに
たった一人でも余分な人がいると、途端に風通しが悪くなって、上司の
意思や指示が部下に伝わりにくくなる。また、部下の動きや状況が上司に
届きにくくなってしまう。要するに、組織はできるだけシンプルでなけ
れば、本来の機能を発揮しなくなるということだ。複雑な組織をつくり、
余分なところに人を配置して、誰にどこまでの責任があるのか、この
境界をわかりにくくして組織の機能マヒを起こさせるのはひとえにトップ
の責任である。これに関して、もともと責任のないスタッフに力を与える
のは自殺行為にも等しい。
スタッフに比べて、ラインの長に力がない組織もすぐに機能マヒに陥って
しまう。
● 無我夢中
ある事にすっかり心を奪われて、我を忘れてしまうさま。
▽「無我」はもと仏教語。自分に捕らわれる心を超越した心。
そこから自分を忘れる意。「夢中」は物事にすっかり熱中して、
他のことを考えられない状態。
● 一進一退
進んだり退いたりすること。また、事態がよくなったり悪くなったり
する状態。「戦況は―を繰り返す」「病状が―する」
● インターバル(interval)
1. 隔たり。間隔。合間 (あいま) 。間 (ま) 。「―を置く」
2. 劇場などの休憩時間。幕間 (まくあい) 。
この続きは、次回に。