「人を動かす人」になれ! ㊿+29
84.ユーザーを意識する組織をつくれ
これは自戒の念をこめて披露するのであるが、ベンチャー企業の最大の
落とし穴が「技術過信」であろう。製品がどんどん売れ出し、会社も
大きくなってくると技術力に対する自信が過信へと変わっていきやすい。
だが、技術が非常にすぐれている、製品の性能がよいからというだけで、
将来にわたって製品が売れ続け、ビジネスとして成り立つという保証は
何もない。
では、技術過信はどういった弊害をもたらすのであろうか。
その最たるものが社内に「つくりさえすれば売れる」というムードが
あふれてくることだ。営業部門は「製品さえあればいくらでも売れる」と
技術部門にハッパをかける。技術部門はマーケットは二の次にして自信
たっぷりに続々と製品を開発する。これではすぐに行き詰まってしまう。
わたしはベンチャー企業が忘れてはならないキーワードは、「売ってから
つくる」こと。すなわち、「こんな製品を開発したから買ってください」
ではなく、「貴社に必要なこの分野の製品は、すべてわが社でつくります」
という姿勢だと考えている。だから、社員に対して「一にマーケティング・
セールス、二、三、四がなくて、五に技術開発」というのが、わたしの
口癖になっている。それほどベンチャー企業にとってはマーケティング・
セールスが大切だということである。
「売ってからつくる」ことは、「勝ってから戦う」ということでもある。
戦ってみなければわからないというのなら、まだ慎重にもなれる。
しかし、戦えば勝つと過信して戦いを挑めば必ず油断が生じる。
勝負とはそんなものだと思う。だからこそ、勝ちを最初に決めておいて
から戦いをすべきだという理屈にもなっていく。だからといって技術を
軽視しているわけではない。
基礎的な研究、基礎技術の蓄積には、たゆまぬ努力が払われねばならない。
しかし、それとモノづくりとは切り離して考える必要がある。
モノづくり優先の考え方だけで経営を進めていくと、一歩間違えば在庫の
山を抱えてしまうことになりかねない。
銀行も、ベンチャー企業の技術力に対して融資してくれるのではない。
製品が売れ、利益があがって返済できるという見込みに対して金を貸して
くれるのである。
「技術過信に陥らず、ユーザーを常に意識して、ユーザーを軸にして
技術力を発揮すること」
わたしが技術者に口を酸っぱくして訴えているのは、この言葉である。
● 自戒の念をこめて
経験から得た教訓を述べる際に用いられる、当該の教訓を守るよう自分
自身をも戒めていかなければならないと感じているさまを意味する語。
他人の言動を非難する際に、「自分自身も同じ行為をやりかねないため、
非難していい立場ではないかもしれないが」と断り謙遜するために用い
られる場合もある。
● マーケティング・セールス
セールスマーケティングとは、セールスとマーケティングを組み合わせる
ことをいいます。
セールスとは端的に言うと、その名のとおり「売ること」です。
店頭での販売や営業担当者が行うセールスがこれに該当します。
一方、マーケティングとは「売るための作戦」のことで、どう売るのが
良いのか、誰にどのように伝えるのが良いのか、価格はどうするのか、
などの作戦を立てる行為を指します。2020/01/14
この続きは、次回に。