「人を動かす人」になれ! ㊿+42
97.煙たがられるのを承知で下積みの苦労をさせろ!
史上初の兄弟横綱が誕生し、場所を追うごとに大相撲がおもしろくなって
きた。この若乃花と貴乃花の二人は、並み居る三役、平幕力士のなかでも
まだ若いし、弟の貴乃花はまだしも、兄の若乃花は力士としては非常に
小柄だ。しかも、父親は元大関貴ノ花、現二子山親方で、幼いころから
何不自由なく育てられたはずである。にもかかわらず、二人はなぜあそこ
まで強くなれたのであろう。
興味を持っていろいろと調べてみると、本人たちが角界入りを希望した
ときから、一切の特別扱いをやめてしまったという。
ほかの弟子と同じように父親は「親方」、母親は「おかみさん」と呼ば
せる。また、下積みの大切さを一から教え、兄弟子の世話や背中を流す
のも当然のことのようにさせたようだ。もし、こうした厳しい修業が
なければ、若・貴時代は永遠にこなかったのではないか、とわたしは
思っている。
先憂後楽という言葉がある。困難や苦しみを前もって味わっておけば
おくほど、後の楽しみは大きくなるという意味だが、人生にもそっくり
当てはまる。要するに、人間の一生の収支はプラスマイナスゼロ。
先に楽をすれば後々苦労することになるし、先に苦労をしておけば、
後にそれほど苦労をしなくても済む。
この理屈がわかっている経営者、管理者ほど、部下には厳しくなってしまう。
また、部下に対する期待が大きければ大きいほど、ハードルを高くして、
より一層厳しいものを求めるはずである。
たとえば新入社員。彼らが学生時代に学んだことだけを武器に、社会で
戦わせることはできない。礼儀作法、ルールの厳守やケジメ、あいさつの
仕方にはじまり、社内にいるときにはその新入社員の一挙手一投足、書類や
レポートの一字一句にまで細かく注意を与える。最初は嫌がられるし、
煙たがれるのは承知のうえで、手を抜くことはない。
このような熱意はいずれ通じる時が必ずやってくる。
そこへ到達してはじめて、人が動いてくれるのである。
よく、「彼はオレが育てた」と自慢げに話す管理者がいるが、こういって
いるうちは本物ではない。部下に心底「オレは○○部長に育ててもらった」
といわしめて本物なのである。そのためには、自らのエネルギーのすべてを
相手に注ぎ込むというぐらいの気持ちが必要となる。
● 先憂後楽(せんゆう-こうらく)
常に民に先立って国のことを心配し、民が楽しんだ後に自分が楽しむこと。
北宋の忠臣范仲淹(はんちゅうえん)が為政者の心得を述べた言葉。
転じて、先に苦労・苦難を体験した者は、後に安楽になれるということ。
▽「憂」は心配すること。
● 一挙手一投足
一つ一つの動作や行為、ちょっとした振る舞い。
一度手を上げ、一度足を動かすということから、本来は、
「ほんのわずかな労力」という意味に用いた。2007/10/29
● 一字一句
一つの文字と一つの句。 わずかな字句。 一言一句(いちごんいっく)。
この続きは、次回に。