お問い合せ

「人を動かす人」になれ! ㊿+44

99. 二流から一流へのしあがるためのリーダー学

 

日本電産はわたしを含め四名で一九七三年七月に創業した。

それから二五年、いまでは海外や関連会社まで合わせると従業員は約三万

五○○○名で、幹部社員も年々増え続けている。ただし、わが社が新卒の

定期採用をスタートさせたのは創業三年後の七六年度からで、現在の幹部

社員の比率はプロパーよりも中途採用組が圧倒的に多い。

中途採用組の大半は大企業の出身だが、個人的には非常に優秀で、能力も

高い。しかし、部下を動かしたり、組織をコントロールしていくための

訓練はほとんど受けていないというのが、わたしの実感である。

その決定打が前の会社で、ほとんど上司から叱られたり、部下を叱った

経験がないということだ。そして、世間に広く流布されている「人は褒めて

動かせ」という環境のなかで育ってきたせいか、叱ったり、叱られることに

対して過敏すぎる反応を示す。

一例をあげると、中途採用で入社早々にしかるべきポストに就いたような

人物は、わたしが大勢の部下のいる前でその上司を大声で叱りつけている

現場を見ると、まるで別世界の出来事でも見ているかのような硬直した

表情となり、焦点の定まらない目つきで、しばらくの間茫然と立ち尽く

していることがある。たしかに、前の会社はエリート集団で上司が叱ったり、

強く注意をしなくても部下は自分のやるべきことをきちんと把握し、失敗や

ミスをしても上司から指摘される前に改め、責任もとれたのかも知れない。

だが、いくら一人一人が優秀であったとしても、緊張感や危機感のない

組織はやがて自滅への道を歩むことになるのは歴史の必然で、ここに例外は

存在しない。ましてや、わが社はエリートの集団ではない。

社歴が浅いうえに、いまより規模も小さく、知名度もまったくなかった

ころは、世間で一流、二流と評価されるような人材を採用したくてもでき

なかった。エリートどころか将棋でいえば「歩」の集まりで、前にしか

進めない「歩」を、わたしは叱って叱って叱り抜くことによって、横にも

後ろにも、そして斜めにも自在に動ける「と金」に変えてきた。

そうしなければ、国内はおろか世界中のライバルと競争しても絶対に勝て

ないと考えたからだ。だから、わが社の幹部社員は前の会社がどうで

あったかに関係なく、組織を自在にコントロールしていくためにも、

「歩」を何としてでも「と金」にするという強い意志を持ってもらわなく

てはならない。上司が甘くなれば、部下にも必ず甘えが出てくる。

こうなれば組織はもちろん、たった一人の部下さえも動かせない。

愛情に裏打ちされた厳しさがなければ、強いリーダーシップを発揮する

ことなどできるはずがないのである。

 

● プロパー

 

プロパーとは、(企業によって様々な定義がありますが)主にその企業が

直接採用した社員や、新卒でその企業に入社した社員、生え抜きの社員

などのことを指します。中途入社の社員や協力会社、関係会社などから

来ている出向社員と区別して「プロパー社員」などと用いられます。

 

● 流布

 

世に広まること。広く世間に行き渡ること。「妙なうわさが―している」

 

● 茫然

 

1. 漠然としてつかみどころのないさま。「―とした前途」

  「必要あることを弁ぜず…―たる論を主張するは」〈鉄腸・花間鶯〉

2. 「呆然 (ぼうぜん) 」に同じ。

  「物に見惚れて―たる他国者の」〈魯文・高橋阿伝夜叉譚〉

 

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る