お問い合せ

「人を動かす人」になれ! ㊿+45

100. 夢やロマンを持つことは未来を買うこと

                  部下の未来を「買う」ことができるか

 

わたしは学生時代に、三五歳で独立するという目標を立てた。

なぜ三五歳かというと大学卒業後の一二、三年を独立するための修行の

期間と考えたからだ。この間に三、四社の会社を、三、四年ずつ経験する。

そうすると三五歳ぐらいになる。そして、ただ目標を掲げただけではなく、

大学のときの後輩やサラリーマン時代の部下を教育し、独立準備も怠り

なく進めてきたつもりであった。

しかし、それは大きくアテが外れた。わたしは少なくとも三○名ぐらいは

就いてきてくれるだろうと思っていたが、いざ、独立となると結局就いて

きてくれたのは三名、わたしを入れても四名だった。

このときわたしが痛感したのは、将来に対する保証が何もなければ、

人は動かないということであった。

勤めていた会社を退職する直前に、「近く独立するつもりだ」と部下に

告げると、「永守さんが独立するのなら、ぜひ連れていってほしい」

「いくらでも手伝いたい」と目を輝かせていた連中が、誰一人として

来ないのである。それは無理もないことであった。

たとえ、当時の部下がわたしのことを非常に信頼してくれていたと仮定

しても、給料がきちんと支払われる保証はない。

一○年先どころか、一年先、半年先のことさえわからないというので

あれば、ついて行きようもない。

目標よりも七年早く二八歳で創業。周囲の猛反対を押し切って独立した

ために、誰一人力を貸してくれる者はいない。仕事もとれないし、用意

したわずかな資金もすぐに底をついてしまった。

それでも、われわれ四人は夢、そしてロマンを失わなかった。

そのうち、日本電産を日本一、いや世界一の会社にしてやるんだと——。

わたしは当時から夢やロマンを持つことは、「未来を買うこと」だと

思い続けてきた。だが、これはいくら大金を積んだところで売ってくれる

人はいない。自らの「情熱」「熱意」「執念」でしか手に入れることは

できない。しかし、「情熱」「熱意」「執念」さえあれば、確実に手に

入ると、わたしは堅く信じている。

わたしは命あるかぎり、日本電産の最前線で仕事を続けたいと思っている。

それはわが社の若い社員たちの夢やロマンの実現を一つでも多く見守り

たいからである。

 

<了>

 

● 痛感

 

強く心に感じること。身にしみて感じること。「力量の差を―する」

 

● 夢

 

《「いめ」の音変化》

1. 睡眠中に、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や

    心像。視覚像として現れることが多いが、聴覚・味覚・触覚・運動感覚を

    伴うこともある。「怖い―を見る」「正 (まさ) ―」

2. 将来実現させたいと思っている事柄。

   「政治家になるのが―だ」「少年のころの―がかなう」

3. 現実からはなれた空想や楽しい考え。

  「成功すれば億万長者も―ではない」「―多い少女」

4. 心の迷い。「彼は母の死で―からさめた」

5. はかないこと。たよりにならないこと。

   「―の世の中」「人生は―だ」→夢に夢にも

 

● ロマン(フランス roman)

 

感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれを

もつこと。「―を追う」「―を駆り立てられる」

[補説]「浪漫」とも書く。

 

● 情熱

 

ある物事に向かって気持ちが燃え立つこと。また、その気持ち。熱情。

「研究に―を燃やす」「サッカーに―を傾ける」「―家」

 

● 熱意

 

物事に対する意気込み。熱心な気持ち。

「―がこもる」「仕事に対する―を買う」

 

● 執念

 

ある一つのことを深く思いつめる心。執着してそこから動かない心。

「―をもってやり遂げる」「―を燃やす」

 

 

この続きは、次回に。

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