ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㉙
企業、政府機関、研究所、軍の参謀組織のいずれにおいても、話し合いが
必要である。話し合いがなければ、知識労働者は熱意を失い、ことなかれ
主義に陥るか、自らの精力を専門分野にのみ注ぎ、組織の機会やニーズとは
無縁になっていく。組織内の話し合いはくつろいで行わなければならない
だけに、膨大な時間を必要とする。ゆとりがあると感じられなければ
ならない。それが結局は近道である。
そのためには、中断のないまままとまった時間を用意しなければならない。
仕事の関係に人間関係がからむと、時間はさらに必要になる。
急げば摩擦を生じる。あらゆる組織が仕事の関係と人間関係の複合の上に
成り立つ。ともに働く人が多いほどその相互作用だけで多くの時間が
費やされ、仕事や成果や業績に割ける時間が減る。
経営学には昔から、例えば経理担当者、販売管理者、製造管理者など、
何人かの人間がともに働くときには、上の者が管理できる人の数には
限界があるという管理限界(スパン・オブ・コントロール)の法則がある。
もちろん、チェーンストアの地域担当副社長は、この法則とは関係なく、
何人かの店長でも管理できる。各店長はともに働いてはいないからである。
しかし、この法則の有効性は別として、ともに働く人の数が多くなるほど、
仕事と成果ではなく、互いの間の相互作用により多くの時間が使われる
ようになることは確かである。
したがって組織が大きくなるほど、エクゼクティブはさらに多くの時間を
必要とする。
組織が大きくなるほど、実際に使える時間は少なくなる。
自らの時間がどのように使われているかを知り、自由にできるわずかな
時間を管理することがそれだけ重要になる。
組織が大きいほど、人事についての意思決定の必要も頻繁に出てくる。
人事こそ、手早く行うと失敗する。人事のために必要とされる時間は驚く
ほど多い。人事についての決定がどのような意味をもつかは何度も考え
直して初めて明らかとなる。
成果をあげるエグゼクティブの中には、意思決定の早い人もいれば遅い
人もいる。しかし、人事についての意思決定に限って、彼らはみながみな、
時間をかけて行い、最終的な決定の前に何度も仮の決定を行っている。
世界最大のメーカーGMのトップだったアルフレッド・P・スローンは、
人事についての意思決定は、その場では決してしなかったそうである。
通常、数時間を使っていた。しかもその数日あるいは数週間後には初め
から考え直していた。二度も三度も同じ名前が出てきたときだけ人事の
最終決定を行った。
スローンは最高の人事をすることで定評があった。
しかしその秘訣を聞かれたとき、「秘訣などない。最初に思いつく名前は
概して間違いだということを知っているにすぎない。だから私は、何度も
検討し直している」と答えたという。しかし、そのスローンが、忍耐強さ
からはほど遠い人間だった。
スローンのようにみごとな人事を行うエグゼクティブは多くはない。
しかし、私が知っている成果をあげるエグゼクティブはみな、人事に置いて
正しい答えを得るには、中断されることのない数時間が必要であるという
ことを知っていた。
● ことなかれ主義
事なかれ主義とはものごとに対し、波風が立たないように対応することを
指します。 事なかれ主義の人たちは、争いや喧嘩を嫌い、何よりも平穏を
望む傾向にあります。 事なかれ主義の語源は、「事」と「なかれ」と
「主義」の2つから構成されています。2021/05/14
● スパン・オブ・コントロール
Span of Controlとは、マネジャー1人が直接管理している部下の人数や、
業務の領域。 一般的な事務職では1人の上司が直接管理できる人数は
5~7人程度と言われているが、様々な要因によってspan of controlは
左右される。
この続きは、次回に。