ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+4
弱みに配慮して人事を行えば、うまくいったところで平凡な組織に終わる。
完全な人間、強みだけの人を探したとしても、結局は平凡な組織をつくって
しまう。
大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。山あるところに
谷がある。しかもあらゆる分野で強みをもつ人はいない。
人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。
申し分のない人などありえない。そもそも何について申し分がないかも
問題である。できるだけではなく、できないことに気をとられ、弱みを
避けようとする者は弱い人である。おそらくは強い人に脅威を感じるので
あろう。しかし部下が強みをもち成果をあげることによって苦労させら
れた者など一人もいない。
鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に刻まれた「おのれよりも
優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」との言葉ほど大きな
自慢はない。これほど成果をあげるための優れた処方はない。
カーネギーの部下たちは、それぞれの分野において優秀だった。
それは彼が部下の強みを見出し仕事に適用させたからだった。
もちろん、最も大きな成果をあげたのはカーネギーだった。
リー将軍にまつわる話は人の強みを生かすことの本当の意味を教えてくれる。
あるとき、部下の将軍の一人が命令し無視しリーの作戦を台無しにした。
それが初めてではなかった。ふだんは感情を抑えるリーが怒った。
しかし落ち着いたところで副官が、「解任しますか」と聞いたところ、
まったく驚いたという顔で、「ばかなことをいうな。彼は仕事ができる」
といったという。
● アンドリュー・カーネギー
1835年、スコットランドの貧しい織物職人の子として生まれる。
その後、一家とともに渡米。木綿工場の糸巻き手、電信技手、ペンシル
ヴァニア鉄道監督などを経て、製鉄業に進出、鉄鋼王にまでのし上がった
典型的なアメリカン・ヒーロー。しかし、すぐに実業界から退き、教育
施設や平和機関の設立など福祉事業に持てる資産を投じ、慈善事業家と
して第二の人生を送った。1919年没。
この続きは、次回に。