お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+6

彼ら巨人にいえることは、われわれにはもっといえる。したがって人の

強みを探し、その強みを生かそうとしないならば、できないこと、欠陥、

弱み、障害だけを手にすることになる。

人のもたないものに基づいて人事をし、弱みに焦点を合わせることは、

人という資源の浪費である。濫用とまではいかなくとも、誤用である。

強みを生かすこということは成果を要求することである。何ができるかを

最初に問わなければ、貢献してもらえるものよりもはるかに低い水準で

我慢せざるをえない。成果をあげることを初めから免除することになる。

致命的ではなくとも破壊的である。当然現実的でもない。

真に厳しい上司、すなわち一流の人をつくる上司は、部下がよくできる

はずのことから考え、次にその部下が本当それを行うことを要求する。

弱みを意識して人事を行うことは、組織本来の機能に背く。

組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための

道具である。多くのことは強みをもつ人は、組織を必要としないし欲しも

しない。彼らは独立して働いた方がよい。しかしほとんどの者は、独力で

成果をあげられるほど多様な強みはもっていない。

 

人間関係論では、「手だけを雇うことはできない。手とともに人がついて

来る」という。同じように、われわれは一人では強みだけをもつわけには

いかない。強みとともに弱みがついている。われわれはそのような弱みを

仕事や成果とは関係のない個人的な欠点にしてしまうよう、組織をつくら

なければならない。強みだけを意味あるものとするよう、組織を構築しなけ

ればならない。

 

個人営業の税理士は、いかに有能であっても対人関係の能力を欠くことは

障害になる。だがそのような人も、組織にいるならば机を与えられ、外と

接触しないですむ。人は組織のおかげで、強みだけを生かし弱みを意味の

ないものにできる。財務は得意だが、生産や販売は不得意という中小企業

経営者は、大きな問題に直面することになる。しかし、多少なりとも大きな

企業では、財務だけに強みをもつ者を生産的な存在にすることができる。

 

● 浪費

 

金銭・時間・精力などをむだに使うこと。むだづかい。

「資源を―する」「―家」

 

● 濫用(らんよう)

 

一定の基準や限度を越えてむやみに使うこと。

「カタカナ語を―する」「職権―」

 

● 誤用

 

使い方をまちがえること。また、そういう使い方。「敬語を―する」

 

● 人間関係論

 

人間関係論とは、人間は、人間関係に影響を受けながら行動するという

行動科学の考え方。メイヨーやレスリスバガーのホーソン実験に基づいて

いる。人間は、経済合理性に基づいて行動するというテーラーの科学的

管理法と対照的なとして位置づけられることが多い。

 

● メイヨー

 

ジョージ・エルトン・メイヨー(George Elton Mayo、1880年12月26日 

– 1949年9月7日)は、オーストラリアアデレード出身の文明評論家、

人間関係論学派の創始者。

 

● レスリスバガー


アメリカの経営学者。コロンビア大学マサチューセッツ工科大学

ハーバード大学 (1925修士号取得) に学び,1927年以降ハーバード大学

大学院経営学部で「人間関係論」の研究と講義を担当,46年教授となり,

終生同大学で研究に専念した。経営における人間的要素 (感情,社会的

関係) の重要性を指摘し,人間関係論として経営学研究に大きな影響を

及ぼした。

 

● ホーソン実験

 

「ホーソン実験(Hawthorne experiments)」とは、人間の動機づけに関する

古典的研究のことで、シカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社の

ホーソン工場で行われました。

テイラーの提唱する科学的管理法が行き詰まりを見せていた当時、新たな

生産性拡大の理論を構築するために、アメリカハーバード大学の精神科医

メイヨーや心理学教授レスリスバーガーらがホーソン工場で5年にわたって

行った実験で、照明実験やリレー組みたて実験、面接実験、バンク配線

実験が行われました。

メイヨーらは作業場の明るさに注目し、照度を下げると、どの程度作業

効率に影響があるのかを実験しました。ところが、照度を下げても、作業

効率は下がるどころか、逆に上がっていくという結果が出ました。

これは、調査の対象となっていて、注目されている労働グループの一員と

なっていることが、効率的作業の動機づけになったのではないかとの見解を

示し、労働者の作業能率は、客観的な職場環境よりも職場における個人の

人間関係や目標意識に左右されるのではないか仮説をたて、次々と実験を

行っていきました。

なお、リレー組立実験は、賃金・休憩時間・部屋の温度などさまざまな

条件を変えながら、6名の一定の従業員に組み立て作業を行わせ、作業

能率の変化を見ましたが、実験を重ねれば重ねるほど、作業能率は上がり、

途中、実験前の条件に戻しても、作業能率は上昇したという結果がでて

います。

また、面接実験は、延べ21000人強の労働者に対し聞き取り調査を行い、

労働意欲は、客観的な職場環境の影響は少なく、個人的な経歴や職場での

人間関係に大きく左右されるという結果が出て、労働者の不満は、作業

現場の客観的な要因のみではなく、人間の全体情況と結びついていると

結論付けられました。

過去の実験から、生産性に影響するのは、人間関係や監督者のリーダー

シップであるという仮説が導かれ、最後の実験、バンク配線実験が行われ

ました。

これは、職業の異なる労働者が協業という形で一つのグループとなって

バンク=電話交換機の端子の配線作業を行い、成果を計測しようとした

実験で、労働者は自ら労働量を制限していること、品質管理では、検査官と

労働者の人間関係が評価に影響することなどが結果として現れました。

以上のことから、公式的な組織の規制力よりも、インフォーマル的な組織での

集団規範の方が労働意欲に影響することがわかりました。

よって、職場の人間関係を形成する要素として、リーダーのあり方が問われ、

現代のリーダーシップ研究のきっかけとなりました。

なお、研究結果の解釈等の批判や異論も多く、知名度は高いものの、いまだ、

評価は定まっていません。

 

 

この続きは、次回に。

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