ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+7
成果をあげるには、人の弱みを知らないでよいというわけではない。
ジョン・ジョーンズに税務会計の仕事をさせるとしても、彼の対人能力の
欠如を忘れてはならない。ジョーンズを経営管理者にしてはならない。
対人能力に優れた者はいくらでもいる。しかし、ジョーンズのような一流の
税務会計の専門家は貴重な存在である。この男あるいはこの種の者たちが
もっている能力は、組織にとって重要である。
彼がもっていない能力は何かの制約要因であるにすぎない。
それ以外の何者でもない。
これらのことは当たり前といわれるかもしれない。それではなぜこれらの
ことは常に行われないのか。人の強み、特に同僚の強みを生かすことの
できる者はなぜ稀なのか。
リンカーンのような人でさえ、なぜ強みをもとに人を選ぶまで三回も弱みを
意識して人事を行ったか。
主たる理由は、目の前の人事が人の配置ではなく仕事の配置として現れて
来るからである。したがって、ものの順序として仕事からスタートして
しまい、次の段階としてその仕事に配置すべき人を探すということになる
からである。そうなると、最も不適格な人、すなわち最も無難な人を探す
という誤った道をとりやすい。結果は凡庸な組織である。
そのような事態への対策として最も喧伝されている治療法が、手元の人間に
合うように職務を構築し直すことである。しかし、きわめて単純な小さな
組織を別として、そのような治療は病気よりも害が大きい。
仕事は客観的に設計しなければならない。人の個性ではなく、なすべき
仕事によって設計しなければならない。
仕事の範囲や構造や位置づけを修正すれば、組織全体に連鎖反応が及ぶ。
組織において、仕事は互いに依存関係にあり、連動している。
一人を一つの仕事につけるために、あらゆる人の仕事と責任を変えることは
できない。人に合わせて仕事の構造を変えるならば、仕事と人材の乖離は
増大するばかりである。十指に余る人たちを動かされなければならない。
● 対人能力
対人能力とは、人間関係を円滑に運ぶためのコミュニケーション能力の
ことを指します。対人能力の向上が仕事に与える影響は多岐に渡り、
どんな人でもトレーニングを行うことで、対人能力のスキル向上が
見込まれます。2022/01/26
● 制約要因=制限要因
制限要因(せいげんよういん)とは、ある事象や現象、働きが複数の要素の
影響で起こる場合に、その全体の働き方を決める要素のことである。
具体的には一番不足する要素のこととなる。限定要因(げんていよういん)
という語もあり、また限定要素(-ようそ)、制限要素、同じく制限
(限定)因子(-いんし)など、いずれもほぼ同義に使われる。
● 凡庸
平凡でとりえのないこと。また、その人や、そのさま。「―な(の)人物」
● 乖離
そむきはなれること。結びつきがはなれること。「人心から―した政治」
● 十指に余る
「十指に余る」は十本の指で数えきれないほどあるという意味から発展し、
際立ったものを数え上げていくと、かなりの数になることを言います。
その人の両手がいっぱいになるほどの量や、両手に収まりきらない大きさの
ことではありません。
肩書の数が多くある場合は「十指に余る」を使います。2018/02/12
この続きは、次回に。