ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+8
これは、政府機関や大企業などの官僚的な組織だけの問題ではない。
大学の生化学の入門講座があったとする。講師は優秀なほうがよい。
当然、生化学の中の一分野の専門家ということになる。
しかし講義は総論でなければならない。講師の関心や意向にかかわらず、
生化学全般における基礎的な知識を網羅しなければならない。
何を講義するかは学生のニーズという客観的な要求によって規定される。
講師はこれを受け入れなければならない。
オーケストラの指揮者は、オーボエ奏者がいかに優れた音楽家であろうとも、
第一チェロの欠員の補充として採用したりはしない。
あるいは、指揮者は一人の演奏家を受け入れるために、楽譜を書き直し
たりはしない。
オペラの舞台監督は、プリマドンナのかんしゃくには我慢しつつも、
プログラムに「トスカ」と書いてあればトスカを歌わなくてはならない。
しかし、仕事を客観的かつ非属人的に構築しなければならないという
ことは、もう一ついわく言いがたい理由がある。
すなわちそれこそが組織が多様な人間を確保する唯一の道だからである。
人の気質や個性の違いを認め、かつ助長するための唯一の方法だからで
ある。組織における多様性を確保するには、人間関係を人ではなく仕事を
中心に構築しなければならない。
● 網羅
残らず取り入れること。「各界の代表を―する」
この続きは、次回に。