お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+10

(1) 適切に設計されているか

 

仕事が、自然の摂理や神の手によるものであるかのごとき前提から出発

してはならない。仕事は人の手によるものである。

したがって不可能な仕事、人にはできない仕事を作ってはならない。

しかしそのような仕事は多い。組織図の上では理屈が通っているが、誰にも

こなせない。仕事のできることがわかっている人が次々に失敗する。

その仕事についた者は、半年か一年すると必ず挫折する。

そのような仕事は、通常例外的な人のためにつくられ、その人の個人的な

特異性に合わせてつくられている。普通の人では稀にしかもち合わせない

気質を要求する。人は、多様な知識や技能は身につけることができる。

しかし気質を変えることはできない。したがって、特殊な気質を要求する

仕事は、不可能な仕事、人を殺す仕事となる。

ここにおいて原則は簡単である。すなわち、前職において十分な仕事ぶりを

示してきた人を二人、三人と挫折させる仕事は、そもそも人の仕事では

ないものと考えなければならない。そのような仕事は設計し直さなければ

ならない。

 

あらゆるマーケティングの教科書が、販売管理の仕事は広告宣伝や販売

促進の仕事とともに一人のマーケティング担当役員のもとに置けという。

しかし大手の消費財メーカーの経験によれば、そのような仕事は実行不可能

である。

販売管理すなわち商品を動かすこととともに、広告宣伝や販売促進すなわち

消費者という人を動かすことに関して、同時に成果をあげることを要求

しているからである。そのような二つの要求に合う気質は一人の人のうちに

見出すことは稀にしかできない。

アメリカのマンモス大学の総長の仕事も同じように不可能な仕事である。

大学の総長で成功している者はきわめて少ない。しかも彼らのほとんどが、

それぞれ数々の前職において立派な成果をあげてきた人たちである。

多国籍企業の海外担当副社長の職務も同じように不可能な仕事である。

親会社の管轄地以外の生産や販売がある程度以上、おそらく全体の二割を

超えると「親会社以外のもの」すべてを一つの組織単位にまとめることは、

殺人的あるいは不可能な仕事を生むことになる。

そのような場合には、例えばオランダのフィリップス社のように、親会社の

直轄でない事業は製品グループ別に組織するか、あるいは先進工業国

ブロック(アメリカ、カナダ、西ヨーロッパ、日本)、発展途上国ブロック

(中南米の大部分、インド、中近東諸国)、ほかの低開発国ブロックという

ように、社会的経済的な共通性に基づいて地域別に組織すべきである。

大手化学品メーカーの何社かはすでにこの道を歩んでいる。

今日では、大国における対しの仕事もまた、不可能なものになっている。

大国における大使館の活動は、あまりに大きく、扱いにくく、分散化して

おり、これをマネジメントすべき大使は、大使としての最も重要な任務、

すなわち赴任国の政府、政策、国民を知り、かつ彼らに知られ、信頼

されるという仕事には割くべき時間もなく、もはや関心をもつことさえ

できない状態である。

あるいは、前述したようなマクナマラの仕事ぶりにもかかわらず、私には

いまだに、アメリカの国防長官の仕事が可能なものとは思えない。

とはいえ、現在のアメリカの国防長官の仕事をいかに変えるべきかに

ついてはその具体的な方法を知らない。

したがって、まずは仕事が適切に設計されていることを確かめなければ

ならない。もし適切に設計されていないならば、もはやそのような不可能な

仕事を行わせるための天才を探そうとしてはならない。

仕事そのものを設計し直さなければならない。

組織を評価する基準は天才的な人間の有無ではない。

平凡な人間が非凡な成果をあげられるか否かである。

 

 

この続きは、次回に。

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