ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+13
(3) その人間にできることか
人事においては、仕事が要求するものではなく、その人にできることから
スタートしなければならない。ということは、人事のはるか前から、
しかも人事とは関係なく、一人ひとりの人について考えておかなければ
ならないということである。
これが今日、知識労働者の定期的な評価のための人事考課制度が普及して
いる理由である。その目的は、重要な地位につける決定をしなければ
ならなくなる前に人事の評価をしておくことにある。
しかし、ほとんどすべての大組織が、この制度をもつにもかかわらず
実際には活用していない。毎年少なくとも一回は、部下の全員を評価して
いると答えるエグゼクティブはいる。しかし彼らの多くも、自分たち自身は
上司によって評価されたことがないという。さらに、せっかく考課の結果が
ファイルされているのに、人事の決定を行うときそれを見る者がいない。
誰もが考課資料を役に立たない書類として無視している。
人事考課制度の最も重要な部分として、上司が部下と合い人事考課の結果に
ついて話し合うという考課面談なるものがある。
しかしある新刊経営書の広告は、いみじくも考課面談を「上司にとって
最も嫌な仕事」といっている。
実は、多くの組織が使っている人事考課は、臨床心理学者や異常心理学者が
治療用に開発したものである。臨床心理学者とはつまるところ病人を治療
する治療士である。彼の関心は患者がうまくいっていることではなく、
患者がうまくいっていないことにある。そもそも何かうまくいかない
ことがなければ彼のところへ来るはずはない。
したがって臨床心理学者や異常心理学者は、弱みを診断するべく人を
評価する。
この続きは、次回に。