ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+42
ヴェイルはここでも構想実現のための手段まで考えた。
その結果ベルは、自ら銀行や証券会社の役を果たすことになった。
これら財務上の問題についてヴェイルを補佐したウォルター・ギフォードが、
やがてベルの社長としてヴェイルのあとを継いだ。
これらヴェイルの意思決定は、単にベルが抱えている問題を解決する
ためのものだった。しかし背後にあった基本的な考え方は真に成果を
あげる意思決定というものの特質を表していた。
アルフレッド・P・スローン・ジュニアの例も同じことを示していた。
スローンは、一九二二年に社長に就任し、GMを世界最大の自動車メー
カーに育てあげた。彼はヴェイルとはまったくタイプの違う人物だった。
だがスローンの名を不朽にした分権制についての意思決定は、ヴェイルが
ベルのために行った意思決定と同じ種類のものだった。
スローンがその著『GMとともに』でいっているように、一九二二年当時の
GMは事業部長たちの割拠する連邦だった。彼らのそれぞれのGMとの
合併前には社長だった。彼らは事業部を自分の会社としてマネジメント
していた。
そのような状況において、対処の仕方は二とおりしかないはずだった。
一つはお引き取りいただくことだった。これは、ジョン・D・ロック
フェラーがスタンダード・オイルをつくり、J・P・モルガンがUSスチ
ールをつくった方法だった。もう一つは彼らに指揮を執らせ続けること
だった。これはいわば調整された無政府状態とでもいうべきものだった。
自分たちの利益のために全体の利益を考えるであろうというものだった。
GMの創立者デュラントやスローンの前任者ピエール・デュポンの採用
していた方法だった。
しかし、スローンが社長に就任した頃のGMは、彼らの自我のために
崩壊寸前に追いつめられていた。
スローンはそのような状況を合併会社に特有の問題としてではなく、
あらゆる大企業に共通する問題としてとらえた。
スローンによれば大企業にも統一と統制が必要だった。
真に権力をもつトップが必要だった。しかし同時に現場においては熱意や
強さが必要だった。
● 不朽
朽ちないこと。いつまでも価値を失わずに残ること。
「時代を超えた―の名作」
● 割拠
それぞれが自分の領地を根拠地として勢力を張ること。
「群雄が―する」
この続きは、次回に。