お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+50

必要条件を満たさない決定は、成果の上がらない不適切な決定である。

実際そのような決定は、間違った必要条件を満たす決定よりもたちが悪い。

もちろん正しい必要条件を満たさない決定も、間違った必要条件を満たす

決定も間違いである。だが間違った必要条件を満たす決定ならば救済する

ことである。一応の成果はあがるからである。

満たすべき条件を満たさない決定は、新しい問題を生むだけである。

一度行った決定をいつ放棄するかを知るためにも、必要条件を明確にして

おくことが必要である。他方は必要条件を明確にしていたために有効で

なくなった意思決定に代えて直ちに適切な新しい政策を導入できた例で

ある。

前者の例は、第一次世界大戦勃発時におけるドイツ参謀本部の有名な

シュリーフェン計画である。それはドイツ軍の軍事力を東西両面に

小出しにすることなく両戦線で戦争を遂行するための戦略だった。

当初、弱敵ロシアに対してはわずかの兵力をもってあたり、強敵フランスに

対しては短期間に打撃を与えるために大軍を投入し、あとでロシアを

片づけるというものだった。当然このことは、フランスに対する決定的な

勝利までの間はロシア軍のドイツ領内への侵入を許すことを意味した。

しかし一九一四年八月、このロシア軍の進攻のスピードが過小評価されて

いたことが明らかになった。ロシア軍の侵入を受けた東部のユンカーたち

から救いを求める声が大きくなった。

シュリーフェン元帥の必要条件は明確だった。

しかし彼のあとを継いだ者たちは、技術的な専門家にすぎなかった。

彼らは計画の基本、すなわち軍事力の小出しによる消耗戦を避けるという

必要条件を見失った。

戦略そのものを変えるべきだった。しかし彼らは戦略は確保しつつ、

しかもその実現を不可能にした。西部戦線から兵力を引き抜くことに

よって最初の対フランス電撃作戦の勝利を無にし、東部戦線で兵力を

十分補強できずロシア軍を壊滅させられなかった。

こうして彼らは、シュリーフェン計画が避けようとした事態、すなわち

戦略ではなく兵力が勝敗を決する消耗戦という行きづまり状態をもたら

した。そしてそれ以降は、戦略ではなく応急措置と言葉と期待がある

だけとなった。後者の例は、一九三三年に大統領に就任したフランクリン・

ローズヴェルトの行動だった。彼は選挙運動中、景気回復のための経済

政策を検討していた。三三年当時の景気回復策といえば、保守的な財政

政策と均衡予算を中心とするものだった。

しかし就任式直前のバンクホリデーに経済が崩壊した。ローズヴェルトが

予定していた経済政策は、経済的には機能したかもしれなかった。

しかし政治的には、患者は生き続けられないことがはっきりしていた。

そこで彼は経済的な目標を政治的な目標に切り替えた。

回復から改革へと切り替えた。新しい必要条件は政治的な安定だった。

ということは、経済政策を革新的なものに変えなければならないことを

意味した。必要条件が変化したのだった。

ローズヴェルトは、成果をあげるためには既定の政策を放棄しなければ

ならないことがあるということを知っていた真の意思決定者だった。

 

● ユンカー

 

ユンカードイツ語: Junker)は、エルベ川以東の東部ドイツ地主貴族

指す言葉である。

 

 

この続きは、次回に。

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