ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+51
意思決定において満たすべき必要条件を理解しておくことは、最も危険な
決定、すなわち都合の悪いことが起こらなければうまくいくという種類の
決定を識別するためにも必要である。その種の決定はもっともらしく
見える。しかし必要条件を仔細に検討すれば、矛盾が出てくる。
そのような決定が成功する可能性は皆無ではないがきわめて小さい。
奇跡の困った点は稀にしか起こらないことにあるのではない。
当てにできないことにある。
その典型が、一九六一年にケネディが行ったキューバ侵攻の決定だった。
満たすべき必要条件の一つはカストロを倒すことだった。
しかし同時に、もう一つ満たすべき必要条件があった。
内政干渉に見えないことだった。
ここでは、第二に、第二の必要条件がばかげたものであってキューバ人の
蜂起を信じてくれる者などいるわけがなかったということは、ひとまず
置く。だが当時のアメリカは不介入を必要条件にしていた。
このカストロ打倒とキューバ人蜂起の見せかけという二つの必要条件は、
キューバ人ゲリラのピッグス湾上陸後、直ちにキューバ全島において打倒
カストロの武装蜂起が起こり、しかもそれがキューバ軍を麻痺状態に
陥れたときにのみ同時に成立するものだった。不可能ではないにしても、
キューバのような警察国家では起こりそうもないことだった。
そのような計画は放棄するか、あるいはアメリカ軍による全面介入に変更
するか、いずれかにすべきだった。
この誤りは、ケネディ自身が言うような専門家のせいではなかった。
誤りの原因は、満足させるべき必要条件を十分に検討していなかったこと、
そして両立しえない二つの必要条件を同時に満足させようとする決定は
奇跡への祈りにすぎないという不愉快な事実を認めなかったことにあった。
しかもいかなる決定においても、この必要条件の明確化は事実に基づいて
行われるのではない。それは事実の解釈に基づいて行われる。
すなわち、そもそもが危険を伴う判断なのである。
もちろん誰もが間違った決定を行う危険はある。
事実、誰もが時に間違った決定を行う。
だが最初から必要条件を満たさない決定は行ってはならない。
● 蜂起(ほうき)
ハチが巣から一斉に飛びたつように、大勢が一時に暴動・反乱などの
行動を起こすこと。「悪政に抗して人民が―する」「武装―」
この続きは、次回に。