お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+69

昔からの処方では役に立たない。顧客のうちの九○%に対し納入期限を

九○%守ることを目標とすると定めれば、正確なように見える。

しかし、これをコンピュータの愚鈍な論理に置き換えようとすれば、

実際にはこの目標が何も意味しないことが明らかとなる。

当然次のような疑問が生じる。「顧客のすべてが、注文一○の九までは

納入されるようにするのか」「上得意は注文どおり一○○%納入される

ようにするのか。そうであるならば上得意とは何か」。

あるいはまた「製品のすべてについてこの目標を満足させるのか。

生産量の大半を占めるいくつかの重要な製品についてだけか」「わが社に

とって重要ではないが顧客にとっては重要な何百という製品についても

方針を定めるのか」

これらの問題のすべてがリスクを伴う決定を必要とする。

それらの決定をすべて行わないかぎりコンピュータによる在庫管理は

行えない。しかもそれらは、すべて不確実性に関わる決定である。

コンピュータにインプットできるほど明確なものとはなりえない。

したがって、単なる業務の円滑な遂行であれ、あるいははるか地平線上に

おける核弾頭ミサイルの突然の出現や、石油精製所における高硫黄原油の

出現などの突発事に対する対応であれ、コンピュータに期待するものに

関しては、十分な検討のものにあらかじめ決定を行っておかなければ

ならない。もはやその場しのぎという形での決定は許されない。

意思決定はもはや、小さな適応の連鎖、問題処理の積み重ね、大まかな

対応、事実上の決定という形では行えなくなる。

意思決定は基本方針についてのものでなければならなくなる。

コンピュータが原因ではない。コンピュータは道具にすぎず何物の原因

ともなりえない。コンピュータは単に、すでに起こっていることを浮き

彫りにしているにすぎない。随時の小さな対応から、基本方針についての

意思決定への移行は、かなり前から起こっていることである。

特にこの移行がはっきり現れたのが、第二次世界大戦以後の軍において

だった。軍事行動があまりに広範かつ複雑になった結果、兵站システム

さえ全戦場と全軍をカバーするようになり、ミドルの指揮官たちも戦略的な

意思決定の内容を知らなければならなくなった。

しかも状況にそのつど対応していくのではなく、自ら戦略に関わる意思

決定を行っていかなければならなくなった。

事実、ロンメル、ブラッドリー、ジューコフなど、やがて第二次世界大戦の

英雄となった戦場の将軍たちは、かつての戦争の武人ではなく真の意思

決定について考え抜くミドルマネージャーだった。

 

この続きは、次回に。

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