お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+70

今日意思決定は、少数のトップだけが行うべくものではない。

組織に働くほとんどあらゆる知識労働者が、何らかの方法で自ら決定し、

あるいは少なくとも意思決定のプロセスにおいて積極的な役割を果たさ

なければならなくなっている。

かつてはトップマネジメントというきわめて小さな機関に特有の機能

だったものが、今日の社会的機関すなわち大規模な知識組織においては、

急速に、あらゆる人の、あらゆる組織単位の、日常とまではいかなくとも

通常の仕事となりつつある。

今日では、意思決定をする能力は、知識労働者にとってまさに成果を

あげる能力そのものである。

そして新しい技術もまた、個別の事象への対応から意思決定への移行を

必然のものにしている。そのよい例がOR手法の一つ、PERT(日程計画)で

ある。PERTとは、宇宙船の建造など、高度に複雑な事業において、

死活的に重要な課題の所在を明らかにするための日程上の地図である。

それは、事業全体を期限に間に合わせるための日程を組むことによって、

事業の実施をコントロールするものである。

当然このPERTは、その場しのぎの対処を大幅に減少させる。

その代わりに高度のリスクを伴う体系的な意思決定を必要とする。

しかしPERTを使って現場で仕事をすることになった者は、最初のうち

必ずといってよいほど使い方を間違う。リスクを伴う体系的な意思決定に

よって行うべきことを、依然としてその場の対処として行おうとする。

コンピュータは戦略的な意思決定に対しても同じような影響を及ぼす。

もちろんコンピュータ自身は戦略的な意思決定を行うことはできない。

コンピュータにできることは、といってもいまのところ現実にではなく

潜在的にであるにすぎないが、不確実な未来についての仮定からいかなる

結論が導き出されるか、あるいは逆に、とるべき行動の基礎にはいかなる

行動の基礎にはいかなる仮定があるべきかを計算することにすぎない。

ここでもコンピュータにできることは計算することだけである。

したがって戦略的な意思決定に関してコンピュータを使うには、明快な

分析、特に意思決定が満たすべき必要条件についての分析が必要となる。

つまりリスクを伴う高度な意思決定が必要となる。

コンピュータを正しく使うならば、これまでやむをえず組織内部のことに

エネルギーをとられていた上層のエグゼクティブが、それらの無駄から

解放される。その結果、成果の得られる唯一の世界たる外部に出かけ、

自らの目でものを見ることができるようになる。

コンピュータはまた、意思決定の典型的な間違いの一つを直してくれる。

これまでわれわれは、一般的な状況を一連の特殊な事象ととらえ、個別の

問題として解決しようとしがちだった。

しかしコンピュータは一般的な状況しか扱えない。論理が関わることの

できるのは一般的な状況だけだからである。したがって将来においては、

逆に例外的で特殊なものを一般的な状況の症状の一つとして扱ってしまう

危険が出てくるくらいである。

 

この続きは、次回に。

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