ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+71
すでにこの危険は、有能な軍人の判断力をコンピュータに代えようとする
危険となって現れている。これは、単なる軍人の不満として片づけられる
問題ではない。
しかしコンピュータがもたらす最大の影響は、まさにその抱える制約の
ゆえに単なる対応ではなく真の意思決定を必要とするようにさせること、
およびミドルの経営管理者を現場責任者からエグゼクティブ、意思決定者に
変えることにある。これは起こって当然のことである。
事実すでに企業ではGMが、軍事組織ではプロシア軍の参謀本部が日常
業務の運営を意思決定の問題として体系化している。
そしてまさにGMやプロシア軍の最大の強みがそこにあった。
しかも、業務の運営を行う経営管理者が、リスクと不確実性を伴う判断の
問題として自ら意思決定を行うようになれば、大規模組織に特有の弱みの
一つ、すなわち意思決定を行うトップの地位につくべき人間の訓練と選抜の
機会の欠如という問題を解決できることになる。
企業、政府機関、軍の経営管理者は、業務の運営レベルにおいて考えずに
対応し、知識と分析ではなく感覚によって問題を処理していくかぎり、
訓練も試練も選抜も経ずにやがて戦略的な意思決定に直面することに
なってしまう。
計算尺が高校生を数学者にすることはない。同じように、コンピュータが
事務係を意思決定者に変えることはない。しかしコンピュータの出現に
よって、事務係と潜在的な意思決定者を峻別することが不可欠となる。
そしてコンピュータの力によって意思決定者は成果をあげるための意識的な
意思決定を学ぶことが可能になるとともに、それを学ぶことを強制される
ことになる。
なぜならば、誰かが成果をあげる意思決定を行ってくれなければ、しかも
その意思決定を正しく行ってくれなければ、コンピュータは計算のしようが
ないからである。
コンピュータの出現が、意思決定に対する関心に火をつけることになった
理由は多い。しかしそれはコンピュータが意思決定を乗っ取るからでは
ない。コンピュータが計算を乗っ取ることによって、組織の末端の人間
までがエグゼクティブとなり、成果をあげる決定を行わなければならなく
なるからである。
● 峻別
厳しくはっきりと区別すること。また、その区別。「公私を―する」
この続きは、次回に。