P・F・ドラッカー「創造する経営者」⑥
(2) 成果は、問題の解決ではなく、機会の開拓によって得られる。
問題の解決によって得られる者は、通常の状態に戻すことだけである。
せいぜい、成果をあげる能力に対する妨げを取り除くだけである。
成果そのものは、機会の開拓によってのみ得ることができる。
(3) 成果をあげるには、資源を問題にではなく、機会に投じなければならない。
改めていうまでもなく、問題をまったくなくしてしまうことはできない。
しかし、最小限によることはできるし、しなければならない。
経済学者は、企業の目的として利益の最大化を論ずる。しかし、利益の
最大化は、すでに数知れず批判されてきたように、あまりに曖昧な概念で
あってほとんど意味がない。だが、機会の最大化ということであれば、
それは、企業家的な仕事についての正確かつ意味ある定義となる。
機会の最大化というものならば、企業にとっては、単なる効率ではなく
成果こそが本質的に重要であるということになる。
重要なことは、いかに適切な仕事を行うかではなく、いかになすべき
仕事を見つけ、いかに資源と活動を集中するかである。
(4) 成果は、有能さではなく、市場におけるリーダーシップによってもたらされる。
利益とは意味ある分野において、独自の貢献あるいは少なくとも差別化
された貢献を行うことによって得る報酬である。そして、何が意味ある
分野かは市場と顧客が決定する。すなわち利益は、市場が価値ありとし、
進んで代価を支払うものを供給することによってのみ実現される。
唯一の例外は、一角獣のごとく珍奇な存在たる純粋独占によって得られる
利益だけである。
しかしこのことは、業界において巨人でなければならないということでも、
製品や市場や技術においてトップの地位を占めなければならないという
ことでもない。規模が大きいということと、リーダー的な地位を占める
ということは同じではない。
多くの業界において、最大手でありながら利益率は最高でないという企業が
多い。多くの製品を抱え、多様な市場を相手にし、多様な技術をもたなけ
ればならないために、ユニークな仕事はもちろん、多少なりとも差別化
された仕事さえ不可能となっているからである。
したがってむしろ、二番手あるいは三番手のほうが望ましいことが多い。
リーダーシップを発揮できるような市場の一分野、顧客の一階層、技術の
一応用に集中できるからである。
しかしあまりに多くの企業が、あらゆることでリーダーシップを握る
ことができる、あるいは握るべきであると考え、そのために、かえって
リーダーシップを握ることができる、あるいは握るべきであると考え、
そのために、かえってリーダーシップを握ることができないでいる。
業績をあげるには、顧客や市場において、真に価値のあるものについて、
リーダーシップを握らなければならない。
価値のあるものとは、製品ラインの中の小さな、しかし重要な一部、
あるいはサービスや流通、さらにあるいは、アイデアを早く安く製品に
変える能力であってもよい。しかしそのようなリーダー的な地位を占め
なければ、事業や製品やサービスは、すぐに倒産寸前の限界的な存在と
なる。
いまは、リーダー的な地位にあるように見えるかもしれない。
市場シェアが大きいかもしれない。歴史や伝統の重みあるいは惰力が
あるかもしれない。
しかし、限界的な存在になってしまったのでは、やがて、利益をあげる
ことはおろか存続することさえできなくなる。いまはただ執行猶予を
受けているにすぎない。情けと惰力によって、存続しているにすぎない。
遅かれ早かれ、ブームが去れば排除される。
リーダーシップは、事業戦略において特に重要である。新製品を出した
競争相手や、製品を大幅に改善した競争相手に追いつくだけの戦略では、
頼りにならない。そのようなことによって得られるものは、若干限界的で
なくなるというだけのことである。また、すでに陳腐化した製品の延命
という不毛な試みのために、知識という稀少で高価な資源を投入するように
防衛的な研究開発も戦略として疑わしい。
● 一角獣
英語名はユニコーンunicorn。中世ヨーロッパの伝説にしばしば登場する
想像上の動物。通常、馬の体にねじれた1本の角(つの)をもち、色は白く、
ときには頭部のみ赤く、青い目をもつといわれる。その性は勇猛でアレク
サンドロス大王に比せられ、一角獣が飲んだ水は無毒となり、その角は
最上の解毒剤と信じられた。角をとるために狩りが行われてもしばしば
失敗するが、美しい処女の膝(ひざ)に枕(まくら)しておとなしくなるため、
一角獣狩りにはこの手段がとられた。この両者の組合せには性的な意味が
ある。キリスト教的には世と戦いマリアにかしづくキリストを象徴、紋章では
スコットランドの王室を表し、イングランドのライオンと並んで、イギリスを
象徴するようになった。一角獣の角として展示されているものはしばしば
イッカクというハクジラのそれである。
パリのクリュニー美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館所有の
タペストリーに描かれ、リルケ、イェーツ、ガルシア・ロルカなどの詩に
現れる。
● 惰力
それまでの習慣やくせのなごり。
この続きは、次回に。