お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-3

□ コストを全体の流れの中で理解する

 

しかし、コストポイントのそれぞれを独立した問題として扱うことは

適切ではない。コストポイントの分析からも、コストは一つの体系で

あるということが明らかになるはずである。結果はともかくとして、

活動やコストは容易にほかのコストポイントに押しつけられることが

明らかになるからである。

 

ユニバーサル・プロダクツ社の場合においても、在庫を多くすることに

よって総コストを抑えることはできるはずである。

そしてその結果、工場では年間を通じて平均した生産を行えるようになる。

生産量の変動に起因するコスト、さらには需要のピークに応じるための

コストも削減し、生産の効率をあげることができるようになる。

しかし、在庫を増やすことが生産量の変動に伴うコスト増以上に伴う

コストを招き、かえって新しい浪費を意味することもありえた。

 

在庫のコスト増は、生産のコスト減によって補うことができるかは、

製品とコストの流れ全体を一つのシステムとして分析することによって

のみ明らかにできる。もちろんそれはORやシステム工学によって簡単に

分析できる。

 

販売促進のためには、在庫を多くして、引き渡しを迅速にし、信用条件や

支払条件の緩和を図ることが有効な場合がある。しかしユニバーサル・

プロダクツ社の場合、分析の結果、小口の小売業者についてはこの戦略が

有効でないことが明らかになった。コストに見合う受注が期待できなかった

からである。では、大口の小売業者についてはどうか。

販売促進上、最小のコストで最大の成果をあげるには、大口の小売業者に

対するサービスや融資は充実させなければならない。

消費者自身が選択する商品については、消費者に対する直接の販売活動が、

決定的ではないかもしれないが明らかに重要な意味をもつ。

しかし、ポータブルのタイプライターを買う大学の新入生は、専門家つまり

小売業者や営業担当者の助言を頼りにする。聞いたことのあるブランド

でさえあれば助言に従う。したがって、この種の製品の場合には、小売

業者への卸値を下げる、資金繰りを助けるなどの小売業者向けの販促活動が

効果的かつ安上がりとなる。

例えば、あまり広告されていないあるドイツ製タイプライターが、ここ

数年アメリカの市場で成功している原因がこれである。

 

あらゆるコストポイントをコストの流れの一部として理解しなければ

ならない。いかなるコストポイントに対する対策についても、「ほかの

コストにいかなる影響を与えるか」を問わなければならない。

それ自身が、低コストあるいは効率的であるという生産方式は存在しない。

存在するのは、顧客にとって最も安い製品やサービスをもたらす生産

方法である。したがって、常にコスト間の関係に対する理解が必要である。

ほかのコストや効率を犠牲にするコスト管理やコスト削減のような部分

最適化の手法は避けなければならない。あるコストの増加には目をつぶり、

総コストの大幅減を図るというトレードオフこそ望ましい。

 

この続きは、次回に。

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