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P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-26

化学品の業界でも、有名なメーカー三社が対照的な例を示している。

 

三社とも長年の間、業績は好調である。外部の者には三社とも同じように

見える。いずれも大研究所、工場、営業組織をもっている。

そして同じ化学品分野にある。設備投資や売上高もほぼ同じである。

ROI(投資収益率)もほぼ同じである。

しかしそのうちの一社は、消費財市場向けの新製品でのみ、常に成功して

いる。もう一社は、工業用ユーザー向けの特殊化学品の開発で際立った

成功を収めている。しかし、消費財市場への進出には何度も失敗している。

残る一社は、消費財市場、生産財市場のいずれにおいても特に優れた

実績がない。売上高利益率はほかの二社よりもかなり低い。

しかし研究開発の成果をもとに、ほかの化学品メーカーから膨大な特許料を

得ている。ただし、自社の研究開発の成果を自ら製品として成功させ、

その売上げから高い利益をあげることについては不得意のようである。

第一と第三のメーカーは、明らかに独創的な研究開発に強い。

第二のメーカーは、冗談交じりであるが、ここ二○年というもの、独創的な

アイデアなど生んだことがないといっている。

しかしこのメーカーは、他社の未完成のアイデアや研究所段階のアイデアに

可能性を見出し、権利を取得し、工業用の特殊化学品に仕立てるうえで

驚くべき能力をもっている。

そして、これら三社のいずれもが、それぞれ自社は何ができ、何ができ

ないかを理解している。いずれも自社に特有の知識の観点から目標と評価

基準を設定している。

第一のメーカーは消費財市場での成功という観点から、第二のメーカーは

工業用特殊化学品の成功という観点から、そして第三のメーカーは支出

する研究予算と特許収入との比率という観点から目標を設定している。

もちろん比較の対象は他社とは限らない。自社の成功と失敗を比較する

こともできる。そして「この違いの原因は何か」を問い続けなければ

ならない。

 

人工衛星、ミサイル、ジェット機関係のある計器メーカーでは、プロジェ

クト事にあまりに業績が違っていたため、技術にはあまり詳しくない

新しい社長を迎えて、何とかしようとした。

プロジェクトごとの業績のばらつきの原因はすぐにはわからなかった。

電子機器では、大成功と完全な失敗が同居していた。それは誘導機器でも

光学でも同じだった。各々の責任者についても分析したが、答えは出な

かった。同じ人間が成功したり失敗したりしていた。

しかしプロジェクトを一つひとつ調べた結果、原因が明らかになった。

契約期限のきついプロジェクトでは常に成功していたのである。

すなわち同社に特有の能力は、時間的圧力のもとでの仕事ぶりにあった。

そのようなときにのみ大きな成果をあげるチームが自然に編成されていた。

対して、何の圧力もないときには、誰も契約やプロジェクトを気にかけても

いないかのようだった。

しかも、皮肉なことには、大学のような学術的な雰囲気をつくろうという

意図から、それまでマネジメントは、時間的な圧力のないゆとりある契約を

政府機関からとろうと努力し、しかもその獲得に成功してしまっていた。

最後に、上得意の顧客に対し、わが社は他社にできないどのようなよい

仕事をしているかを聞かなければならない。顧客が常に答えを知っている

わけではない。しかし、いかにとりとめのない答えであったとしても、

どこに正しい答えを見つけるべきかは明らかになる。

 

この続きは、次回に。

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