お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-52

そのような制約は三つの領域において見つけることができる。

すなわち、(1)生産工程の経済性、(2)産業の経済性、(3)市場の経済性、

である。

 

(1) 生産工程の経済性

 

損益分岐点の高い生産工程は、企業や産業を脆弱にする。

損益分岐点は低くなければならない。少なくとも生産や価格が弾力性を

欠いてはならない。稼働率が九八%であって、なおかつ価格が好況時の

水準でなければ赤字であるという企業は、きわめて脆弱である。

 

残念ながら、そのような生産工程は、経済性を無視してまでも課題な設計が

行われものである。すなわち、経済性よりも規模が求められる。

例えば、技術と資金をかけた製紙と仕上げの一貫工場は、信じられない

ほどの大量生産を可能にした。しかしそのような工場は一種類の紙しか

生産できない。そのため、小さな需要の変化が、生産工程全体を不経済

なものにする。

同様の例が外航船の経済性である(第5章参照)。

そもそも、外航船は輸送量の増大に力を入れた結果、主たるコスト要因で

ある湾内作業をさらに困難かつ時間のかかるものにした。

外航船は、作業プロセスについての設計上の重点を誤ったために成長産業

ではなくなった。今日それは手厚い補助にもかかわらず、鉄道と同じ運命を

たどろうとしている。航空輸送に取って代られるつつある。

海上輸送が、航空輸送よりも本質的に劣っているわけではないことは、

タンカー、鉱石船、バナナボートなど、海上でのスピードやコストでは

なく、積み込みや荷降ろしの作業を重視して設計した大型専用船の成功

からして明らかである。

 

予防は治療よりも容易である。したがって新工程の設計特にオートメー

ション化の設計においては、経済と技術のバランスを図ることが重要で

ある。オートメーション化とは本来生産工程を柔軟にすべきものである。

すなわち標準製品の大量生産における経済性だけでなく、少量生産や、

生産量の変化への対応における経済性を実現しなければならない。

しかし実際には、オートメーション化の多くは前述の製紙工場と同じ誤りを

犯し、生産規模を上げることを重視して、全体の経済性と弾力性を犠牲に

している。つまり、それは稼働したその日に陳腐化したも同然である。

なぜならば、今日の製品が適切である期間は常にあまり長くはないから

である。

したがって、広義の経済性を組み入れないかぎり、すなわち柔軟性と

多様性を完全に発揮することができないかぎり、オートメーション化の

推進は明日の弱みとなる。

 

この続きは、次回に。

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