『成しとげる力』⑥
○ 荒海に漕ぎ出していくような会社の設立
そのようにまるで亀の歩みであり、苦労も多かったが、志をともにする
仲間と一丸となって頑張っていくうちに、少しずつだが会社は大きく
なっていく。やがて新工場もできて、従業員も徐々に増えていく。
海外にも進出していく。そのような一歩ずつ夢が実現していく喜びは、
何にも代えがたいものがあった。
まさに「先憂後楽」の言葉どおり、先に大きな苦労を体験させられた
からこそ、本当の喜びを知ることができたのである。
● 先憂後楽
先憂の「憂」は苦労や心配するという意味をあらわし、後楽の「楽」は、
その字の通り楽という意味や楽しみをあらわしています。
先憂後楽は、人々よりも先に国のことを心配し、人々が楽しんだ後で
自身が楽しむべきという政治を行う者の心得を説く言葉で、中国の北栄の
政治家である范仲淹(はんちゅうえん)が述べた言葉です。
先憂後楽は先に苦労や苦難を経験したり、心配事をなくしたりし
ておけば、後で楽が出来るという意味で用いられています。
○ 反骨の心に火をつけてくれた〝恩人〟たち
逆境に負けず、困難にめげず、自分の志を貫き通すためには「執念」が
必要である。意地、負けん気、闘争心、反発心———などといい
換えてもよい。どんな苦難に見舞われても「負けない」と思う強い
気持ち、「なにくそ」とどこまでも食らいつく気概のことである。
○ 闘争心を糧にして努力する者が成長する
○ 苦境のなか手を差し伸べてくれた経営の恩師
○ 気概と執念で困難を突き破ることを教わった
難関にぶつかったとき、初めから「それはできない」と否定から入って
はいけない。とかく頭のいい人間に限って、できない理由をとうとうと
並べ立てる。できる力をもっていながら、すぐ「限界です」とあきら
める。そんなことを許していたら会社はつぶれる。
できることもできなくなってしまう。大切なのは気概と執念だ。
部下が疲れきって「わかりました。もう一度トライします」と根負け
しておれるまで、いい続けなければダメなのだ。
いま相談を受ける立場になって、あのとき、立石さんが伝えたことが
よくわかる。問題が発生すると、ほとんどの人が「どうしたらいいで
しょうか」と血相を変えて駆け込んでくるが、何の策ももっていない
ことが多い。
A案からC案を抱えて、「いかがしましょうか」と相談に来るのなら
まだいい。A案からD案まで考え、「A、B案の二つに絞りました。
六分四分でA案でいきたいと思うのですが、いかがでしょうか」という
相談なら、なおよい。ところがほとんどの人が、まるで人まかせである。
まずは他人の力を借りずに自分の頭で考え抜いて、解決策を探る。
そして、それを実行して結果を積み重ねる。ときには失敗することも
あるだろうが、その経験が次の壁にぶつかったときの力になるのだ。
○ 料理人の修行に学ぶ「下積み」の大切さ
会社を創業して大きく発展させる経営者は、現場で苦労を重ねてきた
人が多い。現場を知り尽くしているからこそ、そこで培った知恵が経営に
活かされているのだ。けっきょくのところ、現場で身をもって体験した
ことでなければ、実践で生かすことはできないし、知恵として蓄積
されることもない。
現場で経験を積むなかで、自分の頭で考えて、答えを見つけていくと
いうのは、かつての日本のさまざまな分野にみられた「徒弟制度」の
なかで行われてきたことである。
下積み時代の苦労はけっしてムダではない。すべて将来に生きてくる。
しかし残念ながら、このことを理解している若者は少ない。
● 徒弟制度
中世ヨーロッパの手工業ギルドにおいて、親方・職人・徒弟の3階層に
よって技能教育を行った制度。また、一般に日本の年季奉公・丁稚
(でっち) などの制度をもいう。
この続きは、次回に。