「道をひらく」松下幸之助 ㉒
・辛抱する心
どんな人がいい人で、どんな人がわるい人か、それは一概にはいえない
けれども、国の法を犯す人はもちろんのこと、おたがいによくない人
びとは、浜の真砂のつきざる如く、昔も今もいっこうになくなりはしない。
万物すべてかくの如し。真善美を求めるのは、人みなの思いだが、どんな
に求めても、美ならざるもの、正ならざるものは、やはりなくなりは
しない。それはいつの世にも美なるものと相まじわって存在し、美醜
とりまぜて、それでこの自然が成り立っているのである。
この世の中が動いているのである。
だからこそ、おたがいに辛抱ということが大事なのである。
寛容の精神が大事なのである。いい人もいるけれども、よくないと思う
人もなかなかなくならない。それが世の中というものであるならば、
辛抱と寛容の心がなかったら、いたずらに心が暗くなるばかりで、この
世の住みにくさを嘆くだけであろう。
人と人とが相寄って、毎日の暮らしを営み、毎日の働きをすすめている
のである。いい人ばかりではない。いろんな人がいる。
だからおたがいに、いますこし辛抱と寛容の心を養いたいものである。
● 浜の真砂はつきるとも
海辺に無数にある砂がなくなっても、世の中に泥棒がいなくなることは
ないであろう。 石川五右衛門の辞世と伝えられる歌で、初句は「石川や」。
● 万物
あらゆるもの。宇宙に存在するすべてのもの。「―は流転する」
● かくの如し
このようである。このとおりである。
● 真善美(しんぜんび)
「真善美」とは人間として目指すべき最高の状態という意味を持つ
言葉です
● 美醜(びしゅう)
うつくしいことと、みにくいこと。「外観の―は問わない」「善悪―」
● 辛抱
つらいことや苦しいことをがまんすること。こらえ忍ぶこと。
「もう少しの―だ」「この店で一〇年間―してきた」
この続きは、次回に。