お問い合せ

「道をひらく」松下幸之助 ㊴

・紙一重

 

天才と狂人とは紙一重というが、その紙一重のちがいから、何という

大きなへだたりが生まれてくることであろう。たかが紙一重と軽んじ

てはいけない。そのわずかのちがいから、天才と狂人ほどの大きな

へだたりが生まれてくるのである。

人間の賢さと愚かさについても、これと同じことがいえるのではなか

ろうか。賢と愚とは非常なへだたりである。しかしそれは紙一重の

ちがいから生まれてくる。すなわち、ちょっとしたものの見方のちがい

から、えらい人と愚かな人との別が生まれてくるのである。

どんなに見ようと、人それぞれの勝手である。だからどんな見方を

しようとかまわないようではあるけれど、紙一重のものの見方のちがい

から、賢と愚、成功と失敗、繁栄と貧困の別が生まれてくるのである

から、やはりいいかげんに、ものの見方をきめるわけにはゆくまい。

考えてみれば、おたがいの生活は、すべて紙一重のちがいによって、

大きく左右されているのではなかろうか。これにはただ一つ、素直な

心になることである。素直に見るか見ないか、ここに紙一重の鍵が

ひそんでいる。

 

・絶対の確信

 

この世の中、この人生、人はすべからく絶対の確信を持って力強く

歩むべしといわれる。それはまことにそうだけれども、よく考えて

みれば、この人の世に、絶対の確信などあり得るはずがない。

持ち得るはずがない。

刻々に変わりゆくこの世の中、あすをも知れぬ人の世で、神か仏で

ないかぎり、絶対にまちがいのない道など、ほんとうはないのである。

だからこそ、おたがいに過ち少なく歩むために、あれこれと思い悩み、

精いっぱいに考える。その果てに、どうにもほかに道がなさそうで、

だからこの道がいちばんよさそうで、そう考えて、それでもまだ心もと

ないけれども、心もとないままではしかたがないから、そこに勇気を

ふるって歩みつづけるのである。みずからを励まし励まし歩みつづけ

るのである。

確信ありげに見えても、ほんとうは手さぐりの人生で、まことにつつ

ましやかなものである。たよりないといえばたよりないかもしれないが、

持てもしない絶対の確信に酔うよりも、この心がまえで謙虚に歩む

ほうが、われも他人も傷つくことが少なくて、結局は最良の道になる

のではなかろうか。

 

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る