「道をひらく」松下幸之助 ㊾
○ 事業をよりよく伸ばすために
・見方を変える
富士山は西からでも東からでも登れる。西の道が悪ければ東から登れ
ばよい。東がけわしければ西から登ればよい。道はいくつもある。
時と場合に応じて、自在に道を変えればよいのである。
一つの道に執すればムリが出る。ムリを通そうとするとゆきづまる。
動かない山を動かそうとするからである。そんなときは、山はそのままに
身軽に自分の身体を動かせば、またそこに新しい道がひらけてくる。
何ごともゆきづまれば、まず自分のものの見方を変えることである。
案外、人は無意識の中にも一つの見方に執して、他の見方のあることを
忘れがちである。そしてゆきづまったと言う。ゆきづまらないまでも
ムリをしている。貧困はこんなところから生まれる。
われわれはもっと自在でありたい。自在にものの見方を変える心の
広さを持ちたい。何ごとも一つに執すれば言行公正を欠く。
深刻な顔をする前に、ちょっと視野を変えてみるがよい。
それで悪ければ、また見方を変えればよい。そのうちに、本当に正しい
道がわかってくる。
模索のほんとうの意味はここにある。そしてこれができる人には、
ゆきづまりはない。おたがいにこの気持ちで、繁栄への道をさぐって
みたいものである。
● 執する
深く心にかける。 とらわれる。 執着する。 しっする。
● 言行
言葉と行い。口で言うことと実際に行うこと。「―が一致しない」
● 公正
公平で偏っていないこと。また、そのさま。
・商売の尊さ
長い人生、迷わずに歩むということは、なかなか容易でない。
その迷いの人生に、ひとすじの光明を与え、心ゆたかに生きる喜びを
与えるのが、いわゆる宗教というもので、過去の歴史においても、人を
救い、世を浄化し、そして数々の豊かな精神文化を生み出してきた。
宗教の力は偉大である。人びとを救うという強い信念のもとに、世間の
求めるものを進んで与えてゆく。だからこそ、心から感謝され、そして
その喜びにふさわしい寄進が集まる。浄財が寄る。
まことに宗教は尊い。だがしかし考えてみれば、商売というものも、
この宗教に一脈相通ずるものがあるのではなかろうか。商売という
ものは、暮らしを高め、日々をゆたかに便利にするために、世間の
人が求めているものを、精いっぱいのサービスをこめて提供して
ゆくのである。だからこそ、それが不当な値段でないかぎり、人びとに
喜んで受け入れられ、それにふさわしい報酬も得られるはずである。
それを、心ならずも値切られて、正当な報酬も得られないままに苦しむ
ということであれば、これははたしてどこに原因があるのであろう。
おたがいに、宗教の尊さとともに商売の尊さというものについても、
今一度の反省を加えてみたいものである。
● 光明
● 浄化
1. きれいにすること。清浄にすること。「空気を―する」
2. 心身の罪やけがれを取り除くこと。社会の悪弊などを除いて、
● 寄進
● 浄財
● 一脈相通ずる
何かしら共通するものがある。
この続きは、次回に。