「道をひらく」松下幸之助 ㊿
・大事なこと
いかに強い力士でも、その勝ち方が正々堂々としていなかったら、
ファンは失望するし、人気も去る。つまり、勝負であるからには勝た
なければならないが、どんなきたないやり方でも勝ちさえすればいい
んだということでは、ほんとうの勝負とはいえないし、立派な力士とも
いえない。勝負というものには、勝ち負けのほかに、勝ち方、負け方
というその内容が大きな問題となるのである。
事業の経営においても、これと全く同じこと。その事業が、どんなに
大きくとも、また小さくとも、それが事業であるかぎり何らかの成果を
あげなければならず、そのためにみんなが懸命な努力をつづけるわけ
であるけれども、ただ成果をあげさえすればいいんだというわけで、
他の迷惑もかえりみず、しゃにむに進むということであれば、その事業は
社会的に何らの存在意義も持たないことになる。だから、事業の場合も、
やっぱりその成果の内容—-つまり、いかに正しい方法で成果をあげる
かということが、大きな問題になるわけである。
むつかしいことかもしれないが、世の中の人びとが、みんなともどもに
繁栄してゆくためには、このむつかしいことに、やはり成功しなければ
ならないと思うのである。
● 正々堂々
軍容が整い勢いが盛んであること。 正面から向き合い態度が立派で
あること。
・ファンがある
ファンというものはありがたい。相撲でも、それがひいきの力士であった
なら、勝てば勝ったで無性に喜ぶし、負ければ負けたで心から同情する。
欲もなし得もなし。相手のどこかに、自分の好むよさを見つけて、その
よさにただ懸命に応援するのである。
だから、スポーツ人でも芸能人でも、自分のファンはとても大事にするし、
そのファンの期待にこたえるべく、自分のよさをより一層伸ばすために、
日夜精進を重ねる。そこに、スポーツ人、芸能人の向上の大きな励みが
あるのだし、ひいてはスポーツ界、芸能界の発展の一つの大きな要素が
ある。
考えてみれば、私たちにもまたファンがある。芸能界だけではない。
個人にも、お店にも、また会社にも、それぞれにそれぞれのファンと
いうものがあるのである。そして陰に陽に力強い声援がおくられている
のである。
おたがいに、この事実を改めて認識し直したい。そして、このありが
たい自分のファンを、もっと大事にし、その好まれている自分のよさを、
精いっぱい伸ばすようにつとめたい。そこに個人の、お店の、そして
会社の繁栄の鍵がある。
この続きは、次回に。