Think clearly シンク・クリアリー ⑨
9. 幸せを台無しにするような要因を取り除こう—問題を避けて手に入れる豊かさ
□ 飛行機の操縦をするときに注意を払うことは?
「年老いたパイロットは存在する。向こう見ずなパイロットもいる。だが、向こう
見ずで長生きしたパイロットはいない」
趣味で飛行機の操縦をしている私は、この格言をことあるごとに思い出す。いつかは
私も年老いたパイロットのひとりになると想像するのは悪くない。向こう見ずで長生き
できないパイロットになるよりずっていい。
一方、これが「投資」に関してとなると、命の危険があるわけではないものの、その
代わり多額のお金がかかっている。
投資家たちはよく「アップサイド」や「ダウンサイド」という言葉を口にする。
「アップサイド」とは、ポジティブな投資結果全般を指す言葉(利回りが平均を上回った
場合)。対する「ダウンサイド」のほうは、考えられる限りの、あらゆるネガティブな
結果(倒産した場合など)を指す言葉だ。
これらのふたつの概念を飛行機の操縦に当てはめてみると、こんな感じになる。
飛行前や飛行中、私は「ダウンサイド」に過剰なほど気を配る。何があってもダウン
サイドを避けようと細心の注意を払う。
それに対して、「アップサイド」はほとんど意識しない。アルプスを覆う雪の眺めが
どのくらい壮大か、どんな驚くような雲の形が見られるか、空気の新鮮な高所で食べる
サンドイッチがどんな味がするか—そんなことは、考えなくてもじきにわかることだ
からだ。
ダウンサイドが取り除かれてさえいれば、アップサイドは自然に姿を現すものなのだ。
□ 「勝つこと」ではなく「負けないこと」が大事
あなたが趣味でテニスの試合をするときには、「ミスを避けること」だけに気持ちを
集中させればいいのだ。
無難なプレーを心がけ、できるだけラリーを続けるようにする。相手はあなたのように
無難にプレーしようとは思っていないので、あなたよりも相手のほうがミスを犯しやす
くなる。趣味のテニスの試合では、「勝つこと」ではなく、「負けないこと」が大事な
のだ。
このように、「アップサイド」ではなく「ダウンサイド」に意識を集中させるアプロー
チ法は、思考の道具としても大いに役に立つ。
□ 「否定神学」が私たちに教えてくれること
ギリシャ人やローマ人や中世の思想家は、この思考法に名前をつけていた。その名も
「否定神学」。神でないものを特定し、除外していくことで神を語ろうとする、「否定
の論理」である。
「神が何であるか」を言い表すことはできないが、「神が何でないか」は明確にできる。
例えば、本書のテーマに沿っていえば、何がよい人生を保証するかを言い表すことはで
きないが、良い人生の妨げになるものなら特定できるということになる。
それも、確実に。
具体的な幸せの要因—-あるいは幸せのアップサイドといってもいいが—に関することは、
いまだに暗中模索の状態だ。
それに対して、私たちの「幸せを大きく損なうものは何か」、あるいは「よい人生を
おびやかすものは何か」と考えると、その要因をきわめて具体的に挙げることができる。
(中略)
そう、「ダウンサイド」は、常に「アップサイド」よりつかみやすい。花崗岩のように
不変で、具体的な形を持っている。アップサイドは、それに比べると空気のようなものだ。
□ 「人生のマイナス要素」をはじめから避ける
だからこそ、よい人生を確実に手にしたければ、「あなたの人生のダウンサイド」を
計画的に排除していけばいい。
(中略)
先に列挙した「人生のマイナス要素」の中にいくつか欠けているものもある。
「病気」「身体的障害」「離婚」だ。これらのことで受けたショックが、思っている
ほど長続きしないことは、数多くの研究結果ですでに明らかになっている。
(中略)
ところが、アルコール依存、麻薬、慢性的なストレス、騒音、長い通勤時間などは—
つまり最初に列挙したすべてのものには—慣れるということがない。これらの問題を
処理するのはけっして容易ではないため、生活の一部として常に存在しつづけ、人生の
質を低下させてしまう。
□ 「何を手に入れたか」ではなく「何を避けるか」
ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーのような、長期にわたって成功をおさ
めている投資家たちのビジネスにおける考え方や、思考のコツや道具は、人生において
もすばらしく役に立つ。
彼らが教えてくれること。それは、「ダウンサイドを避ける」のが何よりも重要だと
いうことだ。投資をする際、バフェットとマンガーは、アップサイドに目を向ける前に
何を避けるべきか—-つまり、何をすべきでないか—に特に気を配るという。
バフェットはこんなことを言っている。「私たちは、ビジネスにおける難問の解決法を
見つけたわけではない。難問は避けたほうがいいと気づいただけだ」
問題を避けるのに、特別な賢さが必要なわけではない。バフェットのビジネスパート
ナーであるチャーリー・マンガーはこうも言っている。
「私たちのような人間が、これほど長期にわたって成功をおさめているのは驚くべき
ことだ。私たちはただ賢くあろうとする代わりに、愚か者になるのを避けているだけ
なのだ」。
結論。よい人生は、空極の幸せを求めた結果として得られるものではない。
馬鹿げたことや愚かな行為を避け、時代の風潮に流されなければ、人生はおのずと
うまくいく。
「何を手に入れたか」で人生の豊かさが決まるわけではない。「何を避けるか」が
大事なのだ。
ユーモアのセンスあふれるチャーリーは、こう付け加えている。
「一番知りたいのは私が死ぬ場所だ。そうすれば、その場所を常に避けていられるからね」。
この続きは、次回に。
2024年10月5日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美