お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ⑫

12. 本音を出しすぎないようにしよう—あなたにも「外交官」が必要なわけ

 

□ 本音は「どの程度」オープンにすべきか?

 

あなたは「オープンな人」が好きだろうか? 嫌いだという人はあまりいないだろう。

オープンな人はわかりやすい。これから何をしようとしているか、何を考えたり感じ

たりしているか、いまどんなことをしていて、腹の内では何を企んでいるかまで、

すべて手にとるように読めてしまう。

ありのままの自分を隠そうとしないオープンな人は、隠しごとができない。

だからオープンな人とは、親密で心地よく効率のいい付き合い方ができる。

(中略)

だが、自分の本音を「どの程度まで」オープンにすべきなのだろう? ひとつ例をとって

考えてみよう。

(中略)

自分の本音をまったく隠そうとしない人を具体的に描き出してみると、だいたいこんな

感じだろう。

 

□ 周囲に不快感を与えない「気遣い」が前提

 

イギリスの哲学者、サイモン・ブラックバーンの著者『Mirror, Mirror(ミラー・ミラー)』

(未邦訳)の中に、ロンドンのウエストミンスター寺院で行われた、チャールズ・ダー

ウィンの葬儀についての記述がある。

 

ダーウィンの長男である(そして葬儀の重要な出席者でもあった)ウィリアムは、葬儀の

ときに最前列に座っていた。

だが葬儀の最中、不意に自分の髪の薄い頭にすきま風が当たるのを感じた彼は、はめて

いた黒い手袋を両方外して毛のない頭の上に載せた。世界中が注目する葬儀のあいだ

中、手袋はずっと頭の上に置かれたままだったらしい。

(中略)

自分の本音をオープンにしすぎるのも考えものだということだ。

どんな場合も、一定の礼儀やマナーや自制心はあってしかるべきなのだ。

周囲に不快感を与えないための気づかいといいかえてもいいだろう。

(中略)

ネットの世界の本音は、本当の意味での本音ではない。では、「本当の本音」は、

どのように扱えば良いのだろう?

 

□ 本音をさらけ出さないほうがいい理由

 

いずれにしても、本音をあけすけに語ることをあまり重視しすぎるのはやめたほうが

いい。理由はいくつかある。

まず、私たち自身、自分のことを本当にわかっているとはいえない。

本音を語っていい相手は、あなたをよく知るあなたのパートナーやごく身近な友人たち

で、表面的な付き合いしかない知り合いに本音を語ってみても何もならない。

ましてや、公共の場で本音を曝け出すなどもってのほかだ。

(中略)

ふたつ目の理由は、本音をあけすけにかたっても、自分をこっけいに見せるだけだからだ。

自分の心のうちを語っても尊敬は得られない。口にした約束を果たすからこそ尊敬され

ているのだ。

三つ目の理由は、細胞のつくりを考えてみるとよくわかる。細胞は生命の基本単位。

どの細胞も、細胞膜に包まれている。有害な物質の進入を防ぎ、バリアを通過させる

分子を正確に選別するのが細胞膜の仕事である。生命レベルでもやはり、同様の働きを

持つ同じような仕組みがある。動物には皮膚があり、植物には樹皮がある。

外側との境界のない生物は長く生きられない。

人間の本音をさらけだすオープンさの度合いは、すなわち心理的なレベルでの「バリア

の厚み」のようなものだ。バリアをまったく持たずに本音をむき出しにするのは、周り

の人に、「自分を都合のいいように利用してください」と差し出しているようなもので

あり、自分をこっけいに見せるだけでなく、周りから攻撃されやすくなるだけだ。

 

□ 意識的に「二番目の人格」をつくりあげる

 

第二次世界大戦の英雄で、のちに大統領にもなった米軍司令官のアイゼンハワーは、

「意識的に『外の世界に向けた人格』をつくりあげていた」という。

『ニューヨークタイムズ』紙のコラムニスト、デイヴィッド・ブルックスは、アイゼン

ハワーがつくりあげたのは「二人目の自分」であって、今日一般的に信じられている、

「本当の自分」は唯一無二という考えとは対極をなすと評している。

この「二番目の人格」は、作為的につくりあげた虚像というわけではない。

安定した信頼を勝ち得るための、「職業上の外向きの顔」だ。

(中略)

私はあなたに、アイゼンハワーのようにこうした「二番目の人格」をつくりあげること

をおすすめしたい。それには、本音を出しすぎず、約束したことを守り、あなた自身の

信条に従った行動をとれば十分。それ以外のことは、他人からはほとんど注目されない。

 

もしあなたがこの「二番目の人格」をつくることに違和感を持つなら、こう考えてみて

はどうだろう。どの国にも「外交政策」があって、「外務大臣」がいる。

あなた自身を「ひとつの国」と考え、外の世界に向けたあなたの外交方針を詳細に書き

出してみるのだ。

「外交官」を務めるのは、あなた自身だ。あなたの「内政」と「外政」の両方を、いわば

あなた自身が兼務するのである。

人々は、「外務大臣」が胸のうちをさらけ出すことを求めていない。外務大臣が弱みを

見せることも、自信をなくしたからといって大げさに嘆いてみせることも望んでいない。

人々が外務大臣に期待するのは、約束を実行すること、協定を守ること、大臣にふさわ

しい態度をとること、陰口をたたかず、不平を言わず、少なくともある程度の礼儀はわき

まえることである。ときどき外務大臣としての自分の出来を評価し、次も自分を再選

させたいかどうかまで考えてみるといい。

「二番目の自分」を選んでも「外務大臣」を選んでも、あなたは皮膚や樹皮のような

役割を果たすそのバリアの効用は、自分を有害な影響から守ってくれるだけではないと

気づくはず。

そういうバリアがあれば、あなたの内面も安定する。どんな境界線にも当てはまること

だが、「外の世界」との区切りが明確になれば、「内側の世界」のこともはっきりと

理解できるようになる。

たとえ世間の人たちや、あなたの同僚や、見せかけの友人から「もっと本音をさらけ

出す」よう求められることがあっても、その言葉に乗ってはいけない。

犬なら感情をすべてさらけ出してもかまわない。でも、あなたは人間なのだ。


 

この続きは、次回に。

 

2024年10月10日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

 

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