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書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑪

「許容可能な損失」の範囲で行動する利点

 

損失が許容できる限りにおいてコミットメントを行うことには、幾つもの利点が指摘さ

れます。第一に、うまくいかない可能性が事前に考慮され、なおかつそれを自分が受容

できることがわかっているため、新しいことを始める心理的ハードルが低くなるといえ

ます。第二に、最悪の事態が起こった場合に失うものに対して、事前にコミットメント

を行うため、成功するかどうかの予測に無駄な労力を費やす必要もなくなります。

そして第三に、うまくいかなかった場合でも失敗が致命傷とはならないために、再度別

の方法でチャレンジすることが可能になるのです。この最後の点は特に重要ですので、

少し説明を加えたいと思います。

不確実性が高い環境では、思い切って行動を起こしたところで期待通りの結果が得られ

ないことは往々にしてありえます。そうした結果は、いわゆる「失敗」と呼べるもので

すが、失敗することそれ自体が問題であるわけではありえません。失敗が問題になるの

は、それが許容不可能な損失を発生させた結果、起業家がそれ以上取り組みを継続でき

なくなり、諦めざるを得なくなるためだといえます。逆に、起業家の行動が「許容可能

な損失」の範囲に収まる限りにおいては、失敗といわれる結果が致命傷を生まないた

め、再度別の方法でチャレンジすることができます。そして、再チャレンジの際には、

先の失敗経験からの反省が何らかの形で活かされることでしょう。つまり、許容可能な

損失の基準で行動する限りにおいては、過去の失敗経験はむしろ、後の成功確率を上げ

てくれる学習機会と見なせるようになります。

「失敗は成功のもと」と言う言葉の通り、先行する失敗経験からの学びが、その後の

成功をもたらしたと考えられる事例は多く存在しています。

 

「本当に必要な資源はどれくらいか」を考える

 

それでは実際に、許容可能な損失の範囲で行動するためには、どのような発想が求めら

れるのでしょうか。少なくとも2つの視点を考慮することが重要だといえます。

第一に、「本当に必要な資源はどれくらいか」という視点であり、着手する時点で最初

に投入する資源をできるだけ小さくできないか、と考えることです。何か新しい取り組

みを始める際に、投入する資源が多ければ多いほど、それがうまくいかない場合に起こ

りうる損失も大きなものになります。

したがって、不確実性が高く、必ずうまくいくという見通しが持てないのであれば、

最初から大きな資源をそこに投入して、失敗が許容可能な損失の水準を超えてしまう

ことは避けなければなりません。できるだけ最初の一歩を小さく踏み出せないかを工夫

することで、行動は許容可能な損失の範囲にとどまりやすくなるでしょう。

踏み出す一歩の歩幅を小さくするためには、さまざまな工夫が考えられる。

 


 

この続きは、次回に。

 

2025年10月13日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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