書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑱
✔︎ 失敗から生まれた世界的なヒット製品
このように予期せぬ事態をきっかけに成功が生み出された事例は、ビジネスの分野でも
いくつも見ることができます。企業の製品・技術開発においても、当初は〝失敗〟と
呼べるような予期せぬ結果が、その後の異なる形で活用されることで、より大きなイノ
ベーションにつながることもあります。
そうした事例の1つは、3Mが発売する「ポストイット(Post-it)」です。
(中略)
※ 詳細は、購読にてご覧下さい。
✔︎ 出口のなかった技術が世界的なイノベーションになる
国内にも、同様の事例を見出すことができます。
現在パナソニックに年間数百億円のライセンス収入をもたらしている技術の1つである、
「手振れ補正技術」として知られる振動ジャイロセンサーの技術もまた、レモンが
レモネードに変換された事例の1つといえます。
(中略)
※ 詳細は、購読にてご覧下さい。
✔︎ 偶然を活用するための4つのステップ
このように大きな成功のきっかけとなるような幸運な偶然は、一般に「セレンディピテ
ィ」と呼ばれます。ただし、すでに取り上げた事例からもわかる通り、偶然の出来事や
情報はそれが起こった時点で、幸運なものだとみなされていたわけでてはなく、その
発生自体が、偉大な発見やイノベーションの創出を保証するわけでもなかったことには
注意が必要です。むしろ、予期せぬ事態が発生した時点ではそれは不都合な出来事とし
て受け止められるものだったといえるでしょう。重要なのは、そうした欲しくなかった
レモンを手にしたときに、それを捨てたり見落としたりするのではなく、別の可能性を
考えて、新たな行動のための資源として活用することです。そのためのステップを整理
してみたいと思います。
「セレンディピティとは」のAI回答
セレンディピティとは、思いがけない発見や偶然の幸運、または価値あるものを偶然
見つける能力を意味する言葉です。この言葉は、イギリスの小説家ホレース・ウォル
ポールが1754年に作った造語で、ペルシャのおとぎ話『セレンディップの3人の王子』
が語源とされています。
語源と意味
セレンディピティは、スリランカの古い名前である「セレンディップ」を舞台にした
物語に由来します。この物語では、3人の王子が旅の途中で優れた知恵や洞察力を発揮
し、予期せぬ幸運を手に入れます。このことから、「幸運な偶然を引き寄せる力」と
いう意味が定義されました。
ビジネスにおける重要性
セレンディピティは、ビジネスにおいてイノベーションや新たな製品開発の重要な概念
として注目されています。
・ イノベーションの創出:
予期せぬ発見が、これまでの常識を覆すような革新的なアイデアや製品の誕生に
つながることがあります。
・ 経営戦略への貢献:
人間の予測には限界があるため、セレンディピティを戦略に組み込むことで、
思いもよらない戦略が生まれる可能性があります。
セレンディピティの具体例
歴史上、セレンディピティによって生まれたとされる発見や製品は数多く存在します。
・ 万有引力の法則:
ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て着想を得たと言われています。
・ ポストイット:
失敗した接着剤の開発から、貼ってはがせるメモ用紙として活用法が発見されました。
・ 電子レンジ:
レーダーの研究中に偶然マイクロ波が食品を温めることを発見したことがきっかけです。
・ ペニシリン:
アレクサンダー・フレミングが培養皿に生えたカビが細菌の増殖を阻害することを
発見しました。
セレンディピティを引き寄せる方法
セレンディピティは単なる偶然ではなく、引き寄せるための行動や心構えが重要です。
・ オープンマインド:
自分の意見に固執せず、異なる意見や考えにも耳を傾ける姿勢が大切です。
・ 多様な交流:
さまざまなバックグラウンドを持つ人々との交流は、新たなアイデアや視点を
もたらします。
・ 行動と気づき:
受け身ではなく、積極的に行動し、目の前で起こる出来事に注意を払い、
利用できるものはないか考えることが重要です。
シンクロニシティとの違い
セレンディピティと似た言葉に「シンクロニシティ」があります。
・ シンクロニシティ:
「意味のある偶然の一致」を指し、例えば「会いたいと思っていた人に偶然会う」
といった事象です。
・ セレンディピティ: 偶然の発見や幸運、またはそれを引き寄せる能力を意味します。
セレンディピティは、偶然の出来事から価値あるものを見出すことに焦点を当てている
点で異なります。
・ ① 予期せぬ事態に気づく
意図しない偶然の出来事や想定外の事態というのは、それに気づくかどうかに関わらず、
おそらく誰にとっても同じ確率で起こっていると考えられます。もし、あなたが「自分
にはこうした幸運な偶然が訪れない」と感じているのであれば、もしかしたら、予期せ
ぬ事態が起こっていないわけではなく、好ましくないものとして無視したり、重要でな
いと感じて見落としたりしている可能性も十分考えられるかもしれません。
1つの予期せぬ事態が起こった時に、それが幸運な偶然なのか、そうでないのかは、その
時点ではわかりません。一見してネガティブな事態も、それを活用する行動を伴うこと
で初めて、大きな成功につながる「幸運な偶然」に変換されるのです。
・ ② 同じ現実に対する見方を帰る(リフレーミング)
熟達した起業家は、コーゼーションの発想ではコントロールの喪失と捉えられるような
予期せぬ事態に直面しても、むしろそれを手持ちの資源を拡張して新たな方向性を生み
出す機会と捉えます。こうした見方の転換は、「リフレーミング」とも呼ばれます。
リフレーミングは、もともと心理療法で活用されてきた言葉であり、自身の認知や活動
の枠組み(フレーム)が変わることによって、同じ出来事に対する受け止め方や反応の
仕方が新しいものに変わることを意味します。
ピーター・ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』のなかで、イノベーション
の機会の1つは「認識の変化」であるとして、次のように述べていますが、これはまさに
リフレーミングの問題であることがわかります。
「コップに半分入っている」と「コップが半分空である」とは、量的には同じである。
だが、意味はまったく違う。「半分入っている」から、「半分空である」に認識を変え
る時、大きなイノベーションの機会が生まれる。
熟達した起業家は、同じ偶然の出来事に対してその捉え方を意図的に変えることで、
積極的に可能性や機会を見出そうとするのです。
・ ③ 予期せぬ事態をきっかけに「手持ちの手段(資源)」を拡張する
あらゆる予期せぬ事態は、手持ちの手段(資源)の拡張機会として捉えることが可のです。
手持ちの手段(資源)は、「私は誰か」・「何を知っているか」・「誰を知っているか」
という3つの要素を特徴としますが、たとえば、予期せぬ人との新しい出会いは、当然
「誰を知っているか」を拡張するでしょうし、予期せぬ情報は、「何を知っているか」
の拡張機会となるでしょう。また予期せぬ事態に直面して行動を見直さざるを得なくな
る経験は、自身の行動の軸に改めて立ち返り、「私は誰か」を明確化する機会になるか
もしれません。
こうして予期せぬ事態は、手持ちの手段(資源)に新たな要素を付け加える機会であるの
と同時に、すでに手にしている自身の「手中の鳥」に気づく機会にもなり得ます。
・ ④ 拡張した手持ちの手段(資源)を活用して新たに「何ができるか」を発想する
こうして、手持ちの手段(資源)が拡張的に変化したならば、エフェクチュエーションの
サイクルに従い、それらの手段を用いて「何ができるか」をもう一度問い、新たな行動
につなげることが重要です。もし以前には見えなかった新しい行動の可能性が生まれ、
それを実行するならば、その先に、予期せぬ事態を活用したレモネードが生み出される
可能性は十分にあるといえるでしょう。
そのために極めて重要なのは、あなた自身がその取り組みを意義あるものと考え、自分
で決めて行動しているという前提です。自分で「何とか形にしたい」と考えている取り
組みだからこそ、思ってもみなかった結果や失敗に直面した際にも、不都合な経験を
受け入れたうえで、「何か新しくできる行動はないか?」を模索する態度が生まれると
考えられます。逆に、その取り組みが気乗りがしないものだったり、誰かにやらされて
いる感覚で取り組んでいるならば、最善を尽くしたにもかかわらず起きうる予期せぬ
事態は、断念するための口実にしかならないでしょう。
それが自らにとって重要な取り組みであればこそ、たとえ想定外の失敗を含む不測の
出来事が起こった場合にも、それすらを資源として活用することができるのです。
この続きは、次回に。
2025年11月11日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美

