お問い合せ

書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ㉓

✔︎ 「藁しべ長者」のようなエフェクチュエーションのプロセス

 

パートナーとの出会いを通じて、新しい資源とビジョンがもたらされることを繰り返し、

最終的には思ってもいないかった結末を迎える、というエフェクチュエーションに近い

展開は、私たちになじみ深い物語にも見えることができます。

「藁しべ長者」の物語は、「今昔物語集」などの古典にも登場する説話で、働ども暮ら

しが楽にならない一人の貧乏な青年が、篤く信仰している観音様に願をかけたところか

ら始まります。すると夢のなかに観音様が現れ、「明日お前が初めに触ったものを持って

旅に出なさい」というお告げを青年に授けました。喜んで飛び出した青年は石につまず

いて転び、つかんだものは1本の藁しべでした。それを持って進んでいくと、大きなアブ

が藁に近寄ってきて離れないので、仕方なくアブを捕まえて藁しべの先に結び付けてさ

らに歩いていきました。そこに、牛車に乗ったお金持ちの男の子が通りかかり、アブで

動く藁しべを見て、「あのオモチャが欲しい」と一緒にいた母親に泣いてせがみます。

青年は母親の頼みに応じて、藁しべを男の子に譲り、かわりに蜜柑を受け取りましたる

さらに歩くと、喉が渇いて行倒れている商人とその付き人がおりました。蜜柑はただの

蜜柑ですが、その時の商人にとってはぜひとも欲しい貴重なものでしたので、青年がそ

れを差し出すとかわりに上等な反物をお礼に渡してくれました。その後も、反物が病気

で弱った馬と交換され、また介抱して元気になった馬を貸してほしいと大きな屋敷の

主人に頼まれ、かわりに留守を預かった屋敷には何年には何年経っても主人が戻らな

かったため、最終的には青年は裕福な暮らしを手に入れることができた、というハッピ

ーエンドの物語です。

多くの人がご存知だろうこの物語とエフェクチュエーションからは、共通する重要な

示唆をいくつも得ることができます。まず、この青年、あるいは起業家がすでに手に

しているものの価値というのは、自分だけでは決められないことです。むしろ、起業家

の手持ちの資源やアイデアの価値は、その時にどのようなパートナーと出会い、そうし

たパートナーが起業家の資源やアイデアにどのような価値を投影するかによって、より

大きな価値へと繰り返し変換される可能性に開かれているといえます。

さらに、そのプロセスは偶発性を伴うために、因果論的な目的手段関係では説明できな

いことです。たとえば、藁しべを持っていたからといってそれが蜜柑に交換される保証

はありませんし、お屋敷を手に入れたいからといって馬を用意するという発想もナンセ

ンスでしょう。

ただし新しい価値は、一人だけで実現されることは決してなく、人々と出会い、他者と

意味のある関係性を模索することで偶発性を活用しようとする働きかけによって生み出

されていました。一本の藁しべを手にした青年が、最終的に長者になるためには、彼が

先へ進ための行動を始めて新しい人々と出会い、相互作用を生み出すことが極めて重要

だったのです。


 

この続きは、次回に。

 

2025年12月8日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

トップへ戻る