[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法①
[第Ⅱ部] 起業家精神のためのマネジメント
新しい事業は、既存の事業とは異なる種類のマネジメントを必要とする。しかしそれは、既存の事業のマネジメントと同じように、体系的、組織的、かつ目的意識をもったマネジメントでなければならない。たとえ対峙する挑戦や抱える問題、あるいは対処すべき病状が異なるとしても、起業家としての原理は、既存企業、社会的機関、ベンチャー・ビジネスのいずれについても同じである。しかも起業家たる者は、共通の役割と責任を担わなければならない。
[第12章]起業家としてのマネジメント
既存企業は、いかに既存の事業のマネジメントを行うかは知っているが、いかに起業家たるべきか、いかにイノベーションを行うべきかを知らない。非営利の社会的機関もまた、特有の問題に直面する。特有の学ぶべきことをもち、特有の間違いをおかす。
同じようにベンチャー・ビジネスも、いかに起業家たるべきか、いかにイノベーションを行うべきかを知らない。とくに、いかにマネジメントを行うべきかを知らない。
○ 起業家のための手引き
既存企業、社会的機関、ベンチャー・ビジネスのそれぞれについて、起業家としてのマネジメントを実践するための具体的な手引きが必要である。何をなすべきか、何に気をつけるべきか、何を避けるべきかについての手引きである。
起業家精神についても、同じように「成人」、つまり既存企業の戦略、実践、問題から始めることとしたい。
○ 既存企業における起業家精神
既存企業とくに大企業は、起業家としての能力を身につけないかぎり、急激な変化とイノベーションの時代を生き抜くことはできない。既存企業は、変化していかなければならない。何ごとがあろうとも、大きく変化していかなければならない。今後25年間に、先進国で製造業に従事するブルーカラー労働者は、今日の3分の1まで減少する。しかもその間、生産高を3倍から4倍に増加させなければならない。
既存企業にこそ、起業家的なリーダーシップの潜在能力がある。既存企業は、必要な資源、とくに人材をもっている。すでに既存の事業をマネジメントしており、マネジメントのチームをつくりあげている。したがって、既存企業こそ、起業家としての機会をもつとともに、その責任も負っている。
○ 社会的機関における起業家精神
急激な変化の時代には、それまで重要な地位を占めていたものの多くが陳腐化していく。
少なくとも、問題への取り組み方の多くが無効となっていく。同時に、そのような時代には、新しい課題、実験、イノベーションの機会が生まれる。そして何よりも、社会の支配的な認識や空気が大きく変化する。
○ ベンチャービジネスのマネジメント
ベンチャー・ビジネスは、過去のあらゆる起業家の時代においてそうであったように、また今日のアメリカの起業家経済においてそうであるように、イノベーションの主たる担い手でありつづける。
この続きは、次回に。