お問い合せ

[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法③

2 起業家精神のための経営政策

トップマネジメントは「いかにしてイノベーションに対する障害を克服するか」に関心をもつ。「いかにしてイノベーションを当然のこととし、それを望み、その実現のため「働くようにさせるか」である。イノベーションこそ、組織を維持し、発展させるための最高の手段であり、一人一人の経営管理者の成功にとって、最も確実な基盤であることを周知させる必要がある。そのうえで、イノベーションの必要度を明らかにする必要がある。さらには、具体的なものにするための第一の段階は、もはや活力を失ったもの、陳腐化したもの、生産的でなくなったものの廃棄を制度化することである。

イノベーションを行うためには、イノベーションに挑戦できる最高の人材を自由にしておかなければならない。同時に、賃金を投入できるようにしておかなければならない。いずれも、過去の成功や失敗、とくに惜しくも失敗したものや、うまくいったはずのものを廃棄しないかぎり、不可能である。それらのものの廃棄が原則となっていれば、みな進んで新しいものを求め、自ら起業家として起業家精神をかきたてるべきことを認識するにいたる。これが第一の段階である。いわば組織の衛生学である。

 

○ 診断のための分析

既存企業が新しい事業に貪欲になるための第二の段階は、製品、サービス、市場、流通チャンネル、工程、技術にはそれぞれライフサイクルがあるということを前提として、現状を分析し、把握することである。

 

○   イノベーション・ニーズの把握

第三の段階が、いかなるイノベーションを、いかなる領域において、いかなる期限で行う必要があるかを明らかにすることである。

 

○   起業家としての計画

第四の段階が、これら廃棄の制度化、既存の事業、製品、サービス、市場、技術についてのレントゲン写真による診断、イノベーションのニーズの把握を前提として、イノベーションの目標と期限について起業家としての計画を立てることである。

 

3 起業家精神のためのいくつかの具体的方策

 

○   機会についての報告と会議

第一に最も簡単なこととして、マネジメントの目を機会に集中させなければならない。人は提示されたものは見るが、提示されていないものは見逃す。

 

○   成功の秘訣の報告

第二に、起業家的なイノベーションにおいて優れた業種をあげた部門の経営管理者が報告する。とくに成功の要因を報告する。「何を行ったか」「いかに機会を見つけたか」「何を学んだか」そして現在、どのようなイノベーションの計画をもっているか」を報告する。

 

○   若手の会合

第三に、起業家的な企業では、トップ・マネジメントの人間が開発研究、エンジニアリング、製造、マーケティング、会計などの若い人たちと合っている。会合では、トップ側が「今日はこちらから話をする会ではない。話を聞きたい。みなさんの考え、とくにこの会社のどこにチャンスがあり、どこに問題があるかを聞きたい。新事業、新製品、新市場についての考えを聞きたい」、さらには「わが社や、わが社の方針について、あるいは業界や技術や市場におけるわが社の地位について、何でも聞いてほしい」と言う。

この種の会合は、頻繁に開く必要はない。トップの人間にとって、時間の負担が大きい。若い人たち25人から30人と、午後や夜の時間を過ごすのは、トップの人間一人につき、値かに2.3回でよい。この種の会合は、必ずもたなければならない。下から上へのコミュニケーションのための優れた機会であり、若い人たち、とくに専門職の人たちが、狭い専門分野から離れて企業全体を見る絶好の機会である。そのうえ、トップ・マネジメントが何に関心をもち、それがなぜであるかが理解できるようになる。トップの側も若い人たちの価値観、ビジョン、関心を理解できるようになる。そして何よりも、企業全体に起業家的なものの見方を浸透させるうえで大きな効果がある。ただしこの種の会合で行われる提案については、一つだけルール化しておくべきことがある。それは、製品や工程、市場やサービスについて何か新しいこと、新しい仕事の仕方を提案する者には、提案の具体化についても責任をもたせるようにすることである。

提案者は、しかるべき期日までに、会合を主宰したトップの人間と会合の参加者全員に対し、提案の具体化について報告しなければならない。さらには、その提案を実施するならば、何が起こるか、逆に、提案が意味をもつためには何をしなければならないか、顧客や市場について、何を前提としているのか、どれだけの資金や人材が必要か、どれだけの時間が必要か、いかなる成果を期待できるかを明らかにしなければならない。この種の会合からは、起業家的な考えが数多く生まれる。しかしここでも、それらの成果でさえ、会合から得られる最も重要なことではないという。それは、組織全体に、起業家的なものの見方、イノベーションに対する受容性、さらには新しいものに対する貪欲さが浸透することだという。

 

この続きは、次回に。

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