お問い合せ

[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法④

4 イノベーションの評価

 

○   個々のプロジェクトの評価

第一に、一つ一つのプロジェクトについて、成果を期待にフィードバックする必要がある。これによって、企業は自らの計画能力と実行能力の質と信頼性を知ることができる。

 

○   イノベーションの定期点検

第二に、イノベーションにかかわる活動全体について、定期的に点検していく必要がある。起業家的たるためには、数年ごとに自らのイノベーションをまとめて評価しなければならない。「どのイノベーションに力を入れ、推進すべきか」「どのイノベーションが新しい機会をもたらすか」逆に「どのイノベーションが期待どおりに進んでいないか」「それらのイノベーションはどうすべきか、諦めるべきか。期限付きでさらに努力すべか。ただし、いかなる期待のもとにか」を考えなければならない。

 

○   イノベーションの業績評価

第三に、起業家たるためには、イノベーションの成果全体を企業全体のイノベーションにかかわる目標や市場における地位さらには企業全体の業績との関係において、評価する必要がある。トップ・マネジメントは、たとえば5年ごとに、主な部門に対し、「この5年間、わが社を変えるようないかなる貢献を行ったか。これから5年間、どのような貢献を行うつもりか」を問わなければならない。既存企業にとって、とくに重要な意味をもつ問いは、「イノベーションにおいてリーダーシップをとっているか」である。あるいは、「少なくともリーダーシップを維持しているか」である。リーダーシップは、必ずしも規模の大きさとは一致しない。それは、リーダーとして受け入れられること、基準の決定者として認められることである。他に従わされるのではなく、他の先頭に立つことである。この問題こそ、既存企業の起業家精神に関わる最も重要な判断基準である。

 

5 起業家精神のための組織構造

既存企業がイノベーションを行うためには、そこに働く人間の一人一人が起業家となることのできる組織構造をもつ必要がある。起業家精神を中心として、もろもろの関係を構築する必要がある。さらには報酬、報償、人事制度を優れた起業家精神に十分報いるものにする必要がある。それらのものが、起業家精神を阻害するようであってはならない。

 

○   既存のものからの分離

新しい起業家的な事業は、既存の事業から分離して組織しなければならない。その理由の一つは、既存の事業はそれに責任をもつ人たちの時間とエネルギーを奪うからである。

 

○   担当トップへの直結

イノベーションにかかわる仕事、とくに新しい事業、製品、サービスの開発を目的とする仕事は、原則としてすべて既存の事業の現場の経営管理者ではなく、このトップに直結させなければならない。既存の事業に責任をもつラインの経営管理者のもとにおいてはならない。新しい事業をおろそかにして息の根をとめてしまうことを防ぐおそらく唯一の方法は、それらのものを初めから独立した事業としてスタートさせることである。

 

○   負担は別々に

新しい事業やイノベーションにかかわる仕事を独立させて行う理由は、もう一つある。

それは負担を軽くすることである。

 

○   評価も別に行う

そもそもイノベーションは、小さくスタートして、大きく身を結ばせなければならない。しかしそれは、そもそもの初めから小さな特殊な製品の開発や既存の製品ラインを若干充実させるといったことではなく、大きな新事業を生むべきものとしてスタートさせなければならない。

 

○ 責任体制

既存企業が起業家的たるための組織構造上の要件の最後は、一人の人間、および一人の単位組織にイノベーションにかかわる全責任をもたせることである。前述の成長しつつある中堅企業のほとんどが、この責任をCEO自身にもたせている。大企業では、トップ・マネジメントの一人にこの責任をもたせている。大企業であっても、それほど大きくない企業では、ほかの仕事と兼務することにしてもよい。さらに、巨大企業ともいうべき大企業では、独立した部門や子会社を設立している。

 

○   イノベーションのための組織づくり

私の知るかぎり、創業者が起業家精神のためのマネジメントを組織のなかに確立していなかった企業で、創業者がいなくなっても起業家的でありつづけたところは一つもない。起業家としてのマネジメントを欠くならば遅くとも数年で臆病になり、後ろ向きになる。

しかも通常、そのような企業は、自分たちを抜きんでた存在にした基本的な特質を失ったことを、手遅れになるまで認識できない。これを認識するためにも、既述した起業家的な成果の測定が不可欠である。

 

この続きは、次回に。

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