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[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑬

「第17章」弱みへの攻撃

1 創造的模倣

「弱みへの攻撃」—-起業家戦略としては、創造的模倣と起業家的柔道という二つの戦略が、これに該当する。

 

〇 差別化

起業家的柔道の戦略を使うときには、業界とメーカー、取引先、商慣習、とくに間違った商慣習、彼らの経営政策の分析からスタートする。

しかるに後に、市場を調べ、その戦略に対する抵抗が最も小さく、最も成功しそうな分野を探す。もちろん起業家的柔道にも真のイノベーションが必要である。同じ製品やサービスを安い価格で提供するだけでは十分でない。既存のものとの差別化が必要である。

新規参入者は、すでに地位を確立しているリーダー企業と同じものを安い価格や優れたサービスで提供するだけでは十分でない。総力戦や創造的模倣と同じように、起業家的柔道もトップの地位を目指し、やがて支配を狙う。しかし起業家的柔道は、それまでのトップ企業と正面切って起用草することはない。少なくとも、トップ企業が挑戦を気にしたり、脅威とみなしたりする分野では競争しない。起業家的柔道もまた「弱みを攻撃する」

 

○  イノベーターよりも創造的

創造的ということは、オリジナルということである。そして、あらゆる模倣に共通していることは、オリジナルではないということである。しかしそれは、まさにぴったりの言葉である。この戦略は模倣である。この戦略では、起業家はすでにほかの誰かが行ったことを行う。しかし、この創造的模倣の戦略を使う起業家は、最初にイノベーションを行った者よりもそのイノベーションの意味をより深く理解しているがゆえに、創造的となる。

IBMがこの戦略を最も多く使い、大きな成果をあげている。

P&Gが、石鹸、洗剤、トイレタリーの市場でトップや地位を獲得し維持するために使っている。あるいは、日本の服部セイコーが世界の時計市場においてトップの地位を得るために使っている。誰かが新しいものを完成間近までにつくりあげるのを待つ。そこだ、仕事に取りかかる。短期間で、顧客の望み、満足し、代価を払ってくれるものをつくりあげる。直ちにそれは標準となり、市場を奪う。

イノベーションを行ったものが、最初から全てを行ってしまい、創造的模倣の戦略に対して戸を閉めていることもある。しかし、これまで創造的模倣に成功した起業家の数を見るかぎり、最初にイノベーションを行った者が、全てのことを行い、市場を占有してしまっていることは、それほど多くはない。

 

〇 イノベーションの完成

創造的模倣は、一般に理解されているような先駆者の失敗を利用するものではない。それどころか、先駆者は成功していない。アップルは成功だった。

タイレノールによって業界トップの地位を追われたアセトアミノフェンの最初の薬も成功だった。だが最初にイノベーションをおこなった者は、自らの成功を理解できなかった。

創造的模倣を行う者は、他人の成功を利用する。

創造的模倣とは、一般に理解されているような意味でのイノベーションではない。

創造的模倣を行う者は、製品やサービスを発明しない。製品やサービスを完成させ、その位置づけを行う。通常、新しい製品やサービスは、市場に導入されたときのままの形では、何かが欠けている。いくつかの特性を追加する必要があるかもしれない。少しずつ異なる市場向けに少しずつ異なるものが必要とされ、製品やサービスを細分化することが求められているかもしれない。市場で正しい位置づけを行うことが求められているかもしれない。あるいは、何が欠けているものがあるかもしれない。

創造的模倣は、製品やサービスを顧客の目で見る。

何にもまして、創造的模倣は製品ではなく市場から、生産者ではなく顧客からスタートする。市場志向であり、市場追従である。急成長する市場を必要とする。創造的模倣を行う者は、新しい製品やサービスを導入した者の顧客を奪い取ることによって、成功するのではない。彼らが生み出しながら、放っておいている市場を相手にする。創造的模倣は、すでに存在している需要を満たすのであって、需要そのものを生み出すのではない。

 

 

 

この続きは、次回に。

 

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