お問い合せ

ドラッカーとの対話  未来を読みきる力 1

ドラッカーとの対話 未来を読みきる力

                 小林 薫著 Kobayasi Kaoru

 

第1部    ドラッカーの魅力

序章 今こそドラッカーを

 

数百年に一度の大変革

 日本の、特にビジネスの場におかれた人たちが直面する問題に対して、

ドラッカーならば何かヒントを与えてくれるのではないかという期待感は

大きいようだ。

その期待の背後には、次の3つの理由があるような気がする。

1つは、現在の大変革は、経営学ならば経営学、経済学ならば経済学、

あるいは政治学ならば政治学という、1つの専門的学問体系(ディシプリン)による

アプローチでは、到底解決し得ない大テーマだからである。

そこに要求されるものは、本当の意味でのマルチ・ディシプリナリ(学問的)な総合力であり、

それこそが稀有なる時代の学際人ドラッカーに要求されているといえる。

そして、こういうメガ・チェンジのただ中にあるからこそ、それを見透す大きな

総合力と省察力を求めているのではなかろうか、

これが指摘したい第1の点である。

2つ目の理由は、このような情報化時代、複雑化の時代となると

なかなか物事や事象の本質がわかりにくいことだ。

情報過多の中からいろいろな非本質的な情報を削ぎ落とし、

あるいは取り崩して見なければならない根っこのところの一番の本質に、

肉薄しなければならない。

これがなかなか凡人の身にはできないのだが、こうした容易には見えにくい

本質に対する洞察力をドラッカーは持っているのである。

しかも未来に対する鋭い先見力も兼ね備えている。

ドラッカーは、大きな流れはしっかりと見据えようとしている。

そのような透察力、英語で言うならば、インサイト(insight)、

あるいは将来に向けてのフォーサイト(forsight)、

このインサイトとフォーサイトが求められていることが、

多くの人が改めてドラッカーに目を向ける理由ではなかろうか。

3番目の理由はとして、今の世の中に非常に非人間的なものが

跋扈していることが挙げられる。

ドラッカーの経営学は、人間主体経営学である。

そのようなアプローチこそ、いま何よりも必要とされているのではなかろうか。

大きな変革の中でこそ本質を見抜き、洞察力を強め、また、

先見力を高め、そしてその中における

人間の存在そのものを見極めようという、そういう真摯なスタンスこそ、

この40年間私がドラッカーに感じてきた尽きぬ魅力の根源である。

 

ドラッカーの総合力

 

 いろいろな従来のマネジメント論を This is not(これではない)。

This is not(これは違う) と選んできた果てに

ドラッカーの持つ総合力な人間主体論に行き当たったのである。

それは、それぞれに触れた諸理論を集大成し、その中心に人間を置くものであった。

 

大物とはどういう人間か

 

ここでいう総合力とは、単なる何でも屋のゼネラリストではなく、

むしろあえて英語力を使うならば、 versatile/versatility

(バーサタイル、バーサティリティ)という言葉に象徴される特性だと思う。

versatilityというのは、いろいろな活きた形での多面性を持っていること。

そうした総合力が、ドラッカーの非常に重要な持ち味なのであり、

その鋭い洞察力にもつながっていると考えられる。

 

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る