認知症はもう怖くない ④
残っている神経細胞の働きを活発にすればいい。
一度死んだ脳神経細胞は生き返らないのに、どうして認知症を改善することができるのか?
もっともな疑問です。が、答えはきわめてシンプルです。
「生き残っている脳神経細胞が、死んだものの分まで働くようになればいい」のです。
「認知症の改善とは、衰えた認知機能を改善すること」に他なりません。
専門的な言葉で言えば、「脳神経細胞を活性化する」ということです。
新薬の開発過程で見いだした「ホスファチジルコリン」の可能性
認知症には今、原因(脳神経細胞の死滅)を根本的に会計する「根治薬」が求められており、
各国の制約会社や研究者が開発に取り組んでいますが、期待される結果はなかなか得られていません。
私も、新薬の開発においては認知症の原因を解決する方向で臨んでいます。DCP-LAは、
私が独自に開発したリノール酸誘導体で、生体内で安定した生理活性を示す化学合成物です。
言葉を換えると、DCP-LAは分解されずに脳内に達成し、認知機能を高める作用があるのです。
通常の不飽和脂肪酸は脳に到達する前に分解されたり、脂肪細胞・骨格筋細胞に吸着されて
脳にはほとんど到達しません。
その意味でも、私はDCP-LAが認知症の治療薬の決定打になるのではないかと考えていますが、
他章でもお話しするように新薬開発には膨大な時間とお金がかかります。
残念ながら現状ではまだ、目の前の患者さんを救うことはできないのです。
私の研究と医療のポリシーなのですが、新薬の開発過程で、ある物質にその願いが叶う
可能性のあることに気づきました。
それが脳神経細胞を活性化させる「ホスファチジルコリン」という物質です。
これは、卵黄や大豆などさまざまな食品に含まれる成分で、あらゆる生体内の細胞膜を構成する
成分のひとつでもあります。
そして、記憶と学習意欲を支援する働きを持っています。
ホスファチジルコリンとはどのような物質なのか?
なぜ効果があるのか?
このホスファチジルコリンについて理解していただくためには、もう少し、脳の中で
おこなわれている情報伝達の仕組みを知っていただくことが必要です。
情報伝達のカギを握る神経伝達物質
ヒトの脳には、数百億個の神経細胞があり、複雑な神経回路を形成しています。
そのネットワークの要となる構造が、シナプスと呼ばれる「神経細胞と神経細胞のつなぎ目」で、
このシナプスの活動(働き)が脳の機能を反映しています。
順を追って説明しましょう。
ある情報が神経細胞に入力されると、情報は電気信号に変換され、神経細胞の細胞体から
軸索(細胞体から延びる突起部分)へと伝えられます。
軸索の先端は、他の神経細胞と接続しています。この接続部分がシナプスです。
軸索のシナプス結合部はややふくらんでおり、シナプス前終末と呼ばれます。
ここまで到達した情報は、次の神経細胞に伝えられるわけですが、シナプスには隙間(シナプス隙間)が
あります。
そこで、シナプスでは電気信号を化学物質の信号に変え、それを伝令役として、次の神経細胞に
情報を伝達します。
伝令役となるのが、シナプス前終末から放出される神経伝達物質です。
この神経伝達物質が、次の神経細胞の細胞膜にある受容体に結合すると、受容体が活性化されて
情報が伝達されるのです。
この続きは、次回に。