認知症はもう怖くない ㉓
睡眠薬や抗不安薬による認知症との関係には誤解がある
睡眠薬、抗不安薬を飲んだからといって認知症の症状が出るという実証はありません。
最近の研究で、睡眠薬・抗不安薬は認知症(アルツハイマー病)の治療にも役立つのではないかという
期待が高まっているわけです。また、睡眠薬・抗不安薬は興奮性神経伝達を抑制することにより、
神経細胞死を軽減することが古くより知られています。
この睡眠薬・抗不安薬の脳保護作用は、少なくとも認知症(アルツハイマー病)を悪化させる
要因にはなりません。物忘れの範疇に、まだらボケと分類されるものがあり、その原因が大人の
「てんかん」であると判明しています。
記憶がまだら状に抜け、症状の良いときと悪いときの差が大きく、短時間の意識が途切れ、
無意識な動作(身振り自動症)などの症状が見られます。
隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)があり、抑制性神経伝達障害による睡眠中のけいれんが特徴と
されています。まだらボケ(認知症)に対して抗てんかん薬(基本的に作用は、睡眠薬・抗不安薬と
同じです)の効果が顕著です。このように、睡眠薬・抗不安薬(抗てんかん薬)は認知症(アルツハイマー病)の
発症を促進するのではなく、逆に認知症に対して良い働きがあるように思われます。
認知症の前触れとしての「軽度認知障害」を知る
認知症の前段階として軽度認知障害(MIC=mild cognitive impairment)が提唱され、認知症の早期発見に
役立てようとする試みが始まっています。
軽度認知障害の患者さんの約半数は五年以内にアルツハイマー病に移行すると言われています。
米国神経学会でメイヨークリニックのピーターセン博士らにより2001年に提唱された軽度認知障害の
定義は、以下の5項目を満たすものとされています。
① 本人または家族(介護者)による物忘れの訴えがある
② 加齢の影響だけでは説明できない記憶障害の存在
③ 日常生活能力は自立
④ 全般的な認知機能は正常
⑤ 認知度は認めない
しかし、軽度認知障害を上記の定義に当てはめて診断するのは非常に困難です。
すでに述べたように、人は年をとるとともに認知機能低下だけでなく、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、
触覚)も衰えていきます。
五感の衰えが同年代の人よりも進行していると感じたら、早期に「物忘れ外来」で診察を受けたほうが
いいかもしれません。また、朝になれば起きる・着替える・身だしなみを整える・食事をすると
いった一連の行動ができない、話しかけられてもそれを理解し適切に応えることができない、
買い物をしてお金の支払いがうまくできない、約束(時間や行為)を忘れる、といったような症状が
出てきた際も、軽度認知障害を疑ってもいいかもしれません。
さらに、軽度認知障害の特徴として、うつ症状、不安感をともなうことが多いとされています。
持続するうつ状態・過度の不安に不眠、食欲不振などを招き、認知症への移行を早めるかもしれません。
ほとんどの方は、認知症に対して「自分は大丈夫」と思っておられるでしょう。
しかし、何度も繰り返しますが、認知症には頭痛・腹痛といったような自覚症状がありません。
だれでも60歳を過ぎたら脳の機能は急速に衰えていきます。
「自分は大丈夫」と思っている60歳以上の方や、最近すこしでも物忘れが気になるという方は、
ぜひ年に一度は脳ドックを受診し、脳のケアに気を配るよう心がけてください。
この続きは、次回に。