池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ㉓
Chapter7 貿易が富を増やす—比較優位
日本のTPP参加には、農業界が大反対をしています。
日本は、産業界と農業界の壁がすごく厚いんですね——
—-19世紀に経済学者リカードが発見した貿易の大原理「比較優位」によって、国際貿易は
世界の常識になりました。では、そもそも貿易は何のためにするのでしょうか?
ここでは、大論争となっている日本のTPP参加問題も含め、貿易について考えていきます。
リカードの「比較優位」によって常識となった国際貿易
そもそも国際貿易は何のためにするのかということを考えていきます。
国際貿易において非常に大事な概念があります。それは「比較優位」という考え方です。
これはアダム・スミスのあと、イギリスのデヴィッド・リカードという経済学者が発見した
貿易の大原理です。
2つの国の間で貿易をすると、実は両方の国にとてもいいことがあるということを
発見したのです。
それ以降、国際貿易は世界の常識になりました。
デヴィッド・リカード David Ricardo(1772〜1823)
イギリスの経済学者。アダム・スミスの『国富論』に影響を受け、自由貿易を擁護する理論を唱えた。
リカードが発見した貿易の大原理
では、比較優位の原理とはどんなものか、説明していきます。
※ 一部省略致します。
それぞれの得意分野に専念すると両方の国にとっていいことがあるという原理を、経済学者
リカードが見つけました。まずこれを頭に入れてください。
比較優位:自国では生産性の高いものの生産に特化し、ほかのものは他国から輸入することで、
より多くのものを得ることができるという考え方。
この考え方によって、19世紀以降、国際貿易が活発となった。
相対的に優位なものを見い出す「比較優位」
※ 一部省略致します。
A国が圧倒的に強いんだから、そのままA国がやればいいじゃないか。
でもB国は、絶対的に力は劣っているけれども、A 国と比較したときにそれほど負けていない
分野に力を注ぎ、貿易によって適切に再分配すれば、両国とも消費量を増やすことができ、
お互いにとって利益が高まる。
国際貿易は双方にとって利益があるという経済理論になるということですね。
この比較優位の考え方は、国際貿易の場で使われるようになりましたが、日常生活や職業生活など、
実はさまざまなところに応用できます。
分業体制をとったほうが、全体としては生産性が高まる
※ 省略致します。
日常生活でも自然に役割分担している
比較優位の考え方において、ぜひ皆さんに汲み取ってほしいことがあります。
勉強でもスポーツでも遊びや芸術でも、この人にはかなわないなという人が皆さんにもいると
思います。でも絶対的にあらゆる分野で負けていても、相対的にはけっこういいセンいっている
分野があるはずです。その分野に特化していけば、ものすごい才能を持っている人と一緒に仕事を
することによって、全体で見ればこれまでよりもよりよい、より大きな成果を上げることが
できるのだということなんです。
皆さんも、自分はだめなんだとコンプレックスを抱いたり絶望したりしたときには、絶対優位で
負けていても比較優位で実はとてもプラスになるんだ、という考え方をしてみてください。
比較優位は生活にも役立ちます。
自由貿易促進の取り組み
GATTというのは、General Agreement on Tariffs and Trade (関税および貿易に関する一般協定)と
いう英語の頭文字です。関税とは、ものを輸入するとき、自分の国の産業を守るために輸入品に
かける税金のことです。
GATTは、世界の国々みんなが参加できる一般的な協定をつくっていこうという取り組みです。
やがてこのGATTよりももっと強い縛りのある国際機関にしようということになり、19995年に
WTO、世界貿易機関に発展しました。本部はスイスのジュネーブにあります。
GATT:関税及び貿易に関する一般協定。
1948年発足。輸入品にかかる関税や輸出入規制などの貿易障壁を多国間の交渉によって取り除き、
自由貿易を堅持することを目的とする。日本は1955年に加盟。
WTO: World Trade Organization 世界貿易機関。
1995年発足。ものだけではなく、サービスや知的所有権を含めた世界の貿易を統括する国際機関。
2年に1回、参加国の閣僚会議を開催している。
ウルグアイ・ラウンドで米の自由化が議題に
※ 省略致します。
ウルグアイ・ラウンド:1986年、南米ウルグアイで始まったGATTによる8回目の多角的貿易交渉のこと。
金融や投資、情報や通信、知的所有権、サービスなど、新しい分野にもGATTの原則が適用される
ことになった。
輸入米への関税は778%
※ 一部省略致します。
ミニマムアクセス米:低い関税での輸入枠(一次関税)の設定義務に基づいて輸入している米のこと。
日本の政府は年間77万トンを義務的に輸入している。
この続きは、次回に。