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超ロジカル思考 「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング⑮

STEP-5  コトラーに学ぶ「人の内面を見る」トレーニング

                Philip Kotler

 

・  ビジネスの見方を変えた天才

ここでは少し視点を変えて、マーケティングの大御所であるフィリップ・コトラーを取り上げたい。

マーケティングとはビジネスにおいて重要なモノの見方を提供してきた学問だ。

しかも、時代の流れに合わせて、マーケティング理論自体のモノの見方も変えてきている。

コトラーが「近代マーケティングの父」「マーケティングの神様」と呼ばれているのは、

こうした学問自体のモノの見方の変換をリードしてきたからだ。

 

・  「モノの価値」の見方を変えたコトラー

コトラーは過去に少なくとも2度、マーケティングにおけるモノの見方を大きく転換している。

最初は米国経済が成長期から成熟期に転じた1970年代であり、次は情報革命が起こった最近の話だ。

ここではマーケティング理論の変遷、「価値がいかに認識されるか」に関する見方の変化について、

あなたにも考えてみてもらおう。

 

Exercise  5-1

成長期から成熟期に転換したときに、消費者のモノに対する見方がどう変わったのか考えて

みてください。また、情報革命によって、消費行動がどう変化してきているかについても

考えてみましょう。

 

大衆を相手にしたマーケティングは、産業革命の勃興によってはじめて必要とされるようになった。

モノを大量に安く生産し、届けることが可能になったため、マスマーケットに対して必需品を

大量に売り込む技術が求められたのだ。

誰もが必要とする必需品が対象であったことから、初期のマーケティングは「消費者に商品の

存在を知らしめれば売れる」という前提に立った、プロダクトアウト型、プッシュ型のアプローチが

多かった。ところが、1970年代になると、米国において経済が飽和し、次第にモノがあふれるように

なっていった。多くの家庭で、必需品はもはや憧れの対象ではなくなった。

この時から、消費者は自分の好みにあったモノを選り好んで買うようになっていった。

これに合わせてマーケティング理論の中にも、「顧客を分類する」という考え方(セグメンテーション)が

持ち込まれる。顧客を細かくグルーピングし、より深く理解する。

商品ではなく顧客を見ようという考え方が出てきたのである。

これによって、顧客が何に価値を認めるか、何に共感を覚え、アイデンティティを感じるのかが

議論のテーマになっていった。

そこから、商品を超えた「ブランド」というものが着目されるようになる。

つまり、マーケティングは商品を売り込む技術から、ターゲットとする消費者を知り、継続的な

関係を構築する学問へと発展していったのだ。

そうなると、マーケティングはモノをつくって売る企業のためのものだけではなくなっていく。

早い段階からコトラーが公共セクターのマーケティングに関心を持つようになっていったのは

このためだ。

 

・  金やモノから、「人」が主役に

その後、今度は情報革命が起こった。情報通信技術が発達したことにより、SNSなどを介して

消費者同士がお互いにつながるようになっていった。

その結果、消費者自身がブログを通じて発信するようになり、他の消費者はメーカーよりも

仲間のブログの方を信用するようになっていった。また、同じ価値観を持つ人たちのコミュニティが

できあがったことで、そこに働きかけ、消費者参加型の商品開発に取り組む企業も現れるようになった。

あるいはアップルのように、熱狂的なファンが参加するストーリーを提供する企業も現れた。

企業はもはや株主だけのものではなくなったのだ。

いくら儲けになったとしても、消費者を裏切るようなことは許されなくなってきている。

それは従業員も同じであり、アップルストアのように、従業員と顧客が共にストーリーを演じる場を

提供することが企業の役割に変わってきているのだ。

こうした企業はアップルだけではない。スターバックス、ディズニーランド、星野リゾートなどを

見れば、変化の芽が見えてくるだろう。

顧客や従業員が企業とともに価値を共創する時代へと移ってきているのである。

産業革命の時代には、金やモノが主役であった。

企業が経営資源を動員して価値あるモノをつくり出した。

消費者は一生懸命企業で働き、貯めたお金で憧れのモノを買った。

しかし、情報革命の時代には、情報はタダで提供される。

音楽も映像もゲームもニュースも、最低限のものはタダで楽しむことができるのだ。

そうなると、お金を貯めて「いつかはクラウン」と言った我慢強い消費者や従業員はいなくなっていく。

モノや情報はもはや希少ではなくなり、自分の価値観を満たしてくれる仲間や、参加型の

ストーリーを消費者は希求するようになってきている。

何年も先まで待つのではなく、いますぐ意味のある活動にメンバーとして参加することが

価値をもたらすように変わってきている。つまり、金やモノに代わって、人が主役になったのだ。

 

 

この続きは、次回に。

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