ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑤
✔️ 「役に立つ」に舵を切り出した世界の経営学
前章で述べたように、経営学最大の学会はアカデミー・オブ・マネジメント(AOM)といいます。
このAOMが最近、新学術誌「Academy of Management Discoveries」の創刊を発表しました。
そしてこのAMDが目指していることこそ、まさに「Practically useful」と「Rigorous」を
追求する研究なのです。
ADMの創刊は画期的なことだ、と私は評価しています。
AOMを運営するような世界のトップクラスの学者たちが、「経営学をもっと実務に役立てるには
どうしたらいいか」を真剣に考え、その一つの回答がこの新学術誌だと考えられるからです。
さて、ここまで「経営学は役に立つ・立たない」を解き明かす上での第一の誤解について述べて
きました。しかしこれよりも、次から述べる第二のほうが深刻かもしれません。
それは、一般に多くの人が、経営学に「答え・正解」を求めているということです。
✔️ 誤解2:経営学は「答え」を与えてくれる
そもそも「経営学が役に立つ」とは、どういうことでしょうか。
「役に立つ」とは、実に漠然とした表現です。
私たちは何を持って経営学が「役に立つ」というのか、一定の評価尺度があるわけではありません。
経営学の知見への目新しさは、企業や個人でかなり濃淡があるようです。
なぜ、バラバラの感想が出てくるのでしょうか。
私は、それは「経営学に『答え・正解』を求める方と、経営学を『思考の軸』と捉える方が
いるからではないか」と考えるようになりました。
そもそも求めているものが違うために、「役に立つ」と感じる人と、そうでない人が分かれるのでは
ないかというのが私の大きな仮説です。
図表2-2をご覧ください。
図左側の象限1、3は、「経営学を学べば、自社の経営課題への答え・正解がすぐ分かれるのではないか」と
期待される方々です。
図表2-2 経営学に何を求めるか、の違い
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
「答え・正解」を期待していると、もし経営学の主張と自社の方策が同じなら「それはもう
知っているから役に立たない」となります。
逆に自社が取り入れていないことだと「抽象的ですぐに実務に応用できない(=答えにならない)」と
感じがちで、だからやはり「役に立たない」となるのではないでしょうか。
他方で、経営学をうまく使っている方々の多くは、答えそのものよりも、経営学の知見を、
あくまで「思考の軸・ベンチマーク」として使っている、というのが私の感触です。
例えば、ある大手事業会社の経営者とお会いしたとき、私はその方から「入山さんが紹介する
経営学の知見は、当社で取り入れていることばかりだ。
しかし、我々が試行錯誤して出した結論と同じことが経営学でも主張されていると分かったのは、
大きな収穫だった」と言われたことがあります。
この方は、図表2-2でいえば右上の象限2に当てはまるでしょう。
ご自身のビジネスで考えに考え、思考を積み重ねて得た結論が本当に正しいのか、なぜそういえるのかを
常に考えており、その一つのヒントとして経営学を使われたのです。
✔️ 経営学は「思考の軸」にすぎない
経営学は、それぞれの企業の戦略・方針に「それは正解です」「間違っています」と安直に答えを
出せる学問ではありません。企業は一社ごとに、直面する事業環境も社内事情も異なるからです。
そもそも、経営ほど複雑で難しいことに、「正解」などないのかもしれません。
あるいはあったとしても、それを見つけるのはきわめて難しいからこそ、みなさんは日々悩まれて
いるはずです。では経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた
「真理に近いかもしれない経営法則」と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの
企業・組織、人に当てはまりやすい法則がどうかの検証結果の二つだけです。
そして、この二つを自身の思考の軸・ベンチマークとして使うことが、経営学の「使い方」だと
考えています。
✔️ 思考の羅針盤を持って、考えてみよう
このように、経営学はあくまで「思考の軸」として使われるべきだと私は思っています。
あるいは、羅針盤といってもいいでしょう。
ビジネス思考に軸があれば、みなさんの考えに一本筋が通り、より深く考察が進むに違いありません。
みなさんには、ビジネスを考えて、考えて、考え抜くための軸・羅針盤として、経営学を使って
いただければと思います。その軸・羅針盤になり得る世界最先端の経営学の知見を、いよいよ
次章から紹介していきましょう。
この続きは、次回に。