ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑰
✔️ 足りないのは「創造性」か「実現への橋渡し」か
これらの一連の研究結果は、日本企業にも需要な示唆があると私は思います。
日本のイノベーションに関する議論は「創造性」と「イノベーション」を混同していることも多く、
結果として一辺倒な処方箋が示されがちです。
しかし「創造性の欠如の問題」「創造性から(イノベーションのための)実現への橋渡しの欠如と
いう問題」は、全くの別物です。さらに重要なのが、「創造性」に求められる要件と「創造性から
実現への橋渡し」の要件が、全く逆なことです。
図表7-2は、これまでの議論をまとめて図示したものです。
まず、ペリースミスらの研究が示すように、そもそも人がクリエイティブになるには「弱い人脈」が
重要です。しかし、いざ創造的なアイデアを出したら、それを社内で売り込むため、むしろ
「強い人脈」を多く持つことが求められるのです。
強いつながりと弱いつながりに逆の効果があることは経営学では依然から主張されていたのですが、
バエアーのAMJ論文はこれをイノベーション・プロセスの文脈で浮き彫りにしたのです。
図表7-2 イノベーション実現への段階における「弱い人脈」と「強い人脈」の効果
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
ここまでの議論をまとめると、日本企業に向けての示唆は三つあると私は考えます。
第一に最も基本的なこととして、「創造性」と「イノベーション」は別物であることを
理解した上で、自社の問題が「創造性の欠如」なのか、「創造性→実現の橋渡しの欠如」なのかを
把握することです。もちろん「うちの会社は両方足りない」という場合も多いでしょうが、
これまで述べたようにどちらが欠如しているかで、打ち手は全く逆になるのです。
例えば「うちの会社はアイデアが足りない」と思っていても、実は社内のエンジニアや
クリエイターはそこそこ創造的なのに、彼らが社内で強い結びつきを持っていないために、
実現に至っていないだけの場合もあるはずです。
このように、日本企業のイノベーションを考えるうえでは「創造性」と「イノベーション」の
峻別が必要で、その上で自社を見つめ直すことが肝要なのです。
✔️ 「チャラ男」と「根回しオヤジ」がタッグを組むと?
第二に、もし自社の問題が「クリエイティブな人が足りないことにある」と判断したら、
社員が「弱いつながり」を社内外にのばせるサポートをしてやることです。
実際、近年増えているIT(情報技術)系のベンチャー経営者のなかには、日ごろから異業種交流会や
勉強会に参加する人が多くいます。
これは典型的な「弱いつながり」をつくる行為です。
それに比べると、既存の大企業や中堅企業のエンジニア、クリエイター、企画部門の社員らは
どうしても内にこもって組織に埋もれがちです。
先のIT経営者のようなことをすると「チャラチャラしている」と、冷ややかに見られるかもしれません。
しかし、そういう方々こそなるべく社外に出て、あるいは社内でも部門間の垣根を越えて、
弱いつながりを多くつくることが、組織として創造性を高めるのに不可欠なのです。
しかし第三に、この弱いつながりを持った創造性の高い人を「アイデアの実現化」まで
橋渡しするには、全く異なるサポートが必要になります。
もちろん弱いつながりを持つ人自身が強いつながりも持って社内の根回しをできればいいのですが、
人間はスーパーマンではないので、これは簡単ではありません。
私は、この問題の解消には、人と人の「ペアリング」やチームのメンバー構成を工夫することが
重要と考えています。
例えば開発チーム内で「弱いつながりを持つ開発者は、強いつながりを持つ監督者とペアを
組ませる」と言った組み合わせです。
フットワークが軽くて弱いつながりを持つ開発者が、やがて創造性を高め、結果として有望な
アイデアを出したら、今度は強いつながりで根回しにもたけた上司がそれを実現まで持って
いくのです。もちろんこれには、その上司が「チャラ男」の創造性を理解できることが条件に
なります。いま、日本企業に求められているのは、チャラ男と、根回し上手な目利き上司の
コンビなのではないでしょうか。
この続きは、次回に。