危機の時代 ジム・ロジャーズ ㉗
・衰退しても復活した例外的な大国
中国を除いて、かつての英国や現在の米国のような覇権国になる可能性を
持つ国は存在しない。16世紀のスペインのようになれる国は他にない。
それが日本だったらいいのに、と日本人は思うかもしれないが、不可能な話だ。
借金漬けで高齢化が進む日本の未来は明るくない。
実際、中国は素晴らしい国だ。
いったん衰退して再び強力なパワーを持つようになった歴史上唯一と言える
国であり、再び覇権を握ろうとしているように思える。
中国は再び世界で最も支配的な力を得る可能性が高い。
米国は多くの分野で支配的な存在になっている。
米国はサッカー王国ではないが、バスケットボールを支配し、野球を支配した。
産業を見ても、米国はITなど実に多くの分野を支配している。
もちろん中国が強くない分野もあるが、多くの分野で圧倒的なパワーを
持ちつつある。ロシアも力のある国だが、21世紀には中国以外に新たな
覇権国になりそうな国はない。
・香港の暴動は自滅につながる
人々が不幸なときはいつでも暴動が起きる。香港だけでなく、フランスでも
街頭で暴動が起きている。世界中で経済が減速しているため、さまざまな
場所に不幸がある。だからこそ人々は通りに出て、抗議するのだ。
中国経済も減速している。私は2018年に中国を訪れた。
欧米諸国の人々は、中国の政治家は悪だと思っているかもしれないが、
北京の政府が香港の制度について何かを変更しようとしたのなら、それは
非常に小さいことだ。
私が見る限り、中国の経済運営はこれまで素晴らしいものだった。
一方、香港は自滅的にすら見える。
香港経済が衰退すれば、上海が経済拠点としてより重要になるはずだ。
だから中国本土にとっては良いことと言えるかもしれない。
香港に近い広東省の深圳も存在感をより高めるだろう。
日本人、ドイツ人、米国人などで、会社を移転させたり、アジアに拠点を
置いたりすることを考えている人は、香港を選択肢として考えないように
なる可能性がある。
2年前なら、香港、シンガポール、東京を検討したかもしれない。
だが、香港はもう進出先の候補ではなくなりつつある。
過激なデモが起きても香港は破壊されていないが、香港のさらなる衰退を
加速させるだろう。
香港が崩壊することはないが、人々が香港に行かなくなるので、将来は
暗いものになりそうだ。
香港に問題があることはみんな知っているので、誰も選ばないようになる。
香港はかつて製造業と金融機関にとって魅力的な場所だったが、中国本土は
遥かにコストが安い。だから国境を越えて深圳を目指す企業が増えた。
上海もビジネスに最適な都市だ。
香港のデモは、同地域の自滅につながるだろう。
・インドの先行きな悲観的な理由
インドの先行きに関しては、期待が大きかった時期もあったが、私は悲観的だ。
そもそもインドの経済は非常に制限され、規制が多い。
例えば、農民を保護しており、地域によって制度は違うものの「5ヘクタール
以上の土地を所有することはできない」といった規制がある。
インド政府は農民を保護することが大事だと考えている。
ニッセイ基礎研究所の2019年の調査レポートによると、インドでは、
2ヘクタール未満の農地しか持たない小規模農家が全体の85%を占めている。
5ヘクタール未満の農地を耕す人が、金持ちになるハードルは高い。
貧しい零細農家が多いため、インドの農民の生活は苦しく、自殺者も多くて、
社会問題になっている。
彼らは生活が苦しく、借金を抱えてにっちもさっちも行かなくなって、
命を絶つ。インドの農民は多くの借金を抱えている。
彼らは農業でお金を稼ぐことができないので、銀行からお金を借りて、
来年は良くなると言い続ける。
すると借金はより膨らんでいき、ますます返済が難しくなって、生きるのが
大変になる。それが高い自殺率につながっており、それがインドの現実だ。
私はインドに投資するつもりはない。かつて何度かインドに投資したことが
あるが、実りがなかった。今後チャンスが来るかもしれないが、インドの
株式市場は割高な状態が長く続いていた。だから、私はインドに投資していない。
外国の小売業がインドに進出するのはリスクがある。
インドでは小売業に外国資本の企業が入れないようにしている。
いい加減にしてほしい。本当におかしなことを言っている。
インドでは、「外国の小売業者は危険」とされているのだ。
日本の小売業も外資に対しては閉鎖的だった。おそらく20年前までインドと
同じような状態だった。私は日本も外国人が好きではなかったことを知っている。
日本もコントロールされ、閉じられた市場だったが、変化している。
インドは日本と違い、今でも外資に閉鎖的だ。
そのような国に投資するのは非常に難しい。
この続きは、次回に。