リテールマーケティング ⑧
4. インバウンド(訪日外国人旅行者)に対するマーケティング
① データにみる訪日外国人旅行者の動向
日本政府観光局や観光庁「訪日外国人消費動向調査(2019年年間値)」等の
データを分析しましょう。
例えば、
・日本政府観光局(JNTO)の公表によれば、2019(令和元)年の訪日外国人
旅行者の推定値が対前年比2.2%増の34,188万2千人で、JNTOが統計を
取り始めた1964(昭和39)年以降、最多となった。
市場別では、中国が959万4千人となり、全市場で初めて950万人を超
えたほか、イギリスが「ラグビーワールドカップ2019日本大会」開催
期間中の9月と10月に前年同月比80%増を超える伸び率を示し、初めて
40万人を突破した。
・観光庁「訪日外国人消費動向調査(2019年年間値)」によれば、2019年の
訪日外国人全体の旅行消費額は4兆8,135億円(推計)である。
これを国籍・地域別に見ると——。
旅行消費額を費目別に見ると——。
—–省略——
今後は、さらに訪日外国人の1人当たり旅行支出を増加させる必要があり、
付加価値の高い商品・サービスの提供や、1人当たり旅行支出が比較的高い
富裕層の獲得、長期滞在傾向の高い欧米やオーストラリアからの誘致などに
取り組む必要がある。
日本政府観光局(JNTO)
世界の主要都市に海外事務所を持ち、日本へのインバウンド・ツーリズム
(外国人の訪日旅行)のプロモーションやマーケティングを行う公的な専門
機関(JNTO:Japan National Tourism Organization、正式名称:独立行政法人
国際観光振興機構)。
② ショッピングツーリズムの促進
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会では、日本の魅力を
世界に伝え、「おもてなし」の心で訪日外国人旅行者(以下、「訪日ゲスト」
という)の買物(ショッピング)を促進しようとしている。
ショッピングは日本を体験できる最高の観光コンテンツであるとして、
次のように「ショッピングエクスペリエンスの3つの価値」を掲げている。
・販売を通じて—日本人の神秘的で不思議な気質にふれることができる。
・商品を通じて—日本人が細部までこだわり抜いた作品に出会うことが
できる。
・品ぞろえを通じて—日本人の普段の生活にあるちょっとしたことを
体験できる。
訪日ゲストがショッピングを通じて日本を「体験」し、日本の商品とともに
旅の思い出や日本のストーリーを母国に持ち帰り、家族・友人と共有する。
同協会では、こうした旅を「ショッピングツーリズム」と定義している。
③ 訪日ゲスト向けのマーケティング
訪日ゲストに対するマーケティングについても、従来のマーケティングの
手法同様のアプローチが有効である。すなわち、まず市場を細分化(セグ
メンテーション)してから、標的とする主要な顧客層を特定(ターゲティング)し、
差別化をはかっていく(ポジショニング)という流れである。
—–省略——
(1) 訪日ゲストに対するセグメンテーション
セグメンテーションとは、一定の基準にもとづいて市場を細分市場(セグ
メント)に分け、対象を絞り込むことである。
市場をより細かなセグメントに分ける基準には、
① 年齢や性別、人種や宗教などの「人口属性(デモグラフィック)基準」
② 国や地域、人口密度、気候などの「地理(ジオグラフィック)基準」
③ 性格やライフスタイル、価値観などの「心理(サイコグラフィック)」
④ 購買量や購買頻度、ブランドロイヤルティなどの「行動基準」が
あるが、訪日ゲストに対しては、「日本以外の国に居住している
こと」と「旅行者であること」が、わかりやすいセグメンテーション
となる。
—–省略—–
(2) 訪日ゲストに対するターゲティング
セグメンテーションによって市場を細分化したのち、自社(自店)の経営
資源をどのセグメントに集中させるのかを決定する。
これをターゲティングという。
—省略——-
(3) 訪日ゲストに対するポジショニング
対象とする市場セグメントを決めたら、その市場セグメント内ですでに
活動している競争相手の戦略を検討し、自己の市場内での戦略的位置
づけを決定する。これがポジショニングである。
ポジショニングを行う目的は、競争相手と比較して、自己の優位性を発揮
できる場所を確保することである。
日本が観光目的の旅行先として他国との差別化をはかり、優位性を発揮
するうえで、先にも触れた3つの「価値」、すなわち、
・日本人の神秘的で不思議な気質にふれることができる。
・日本人が細部までこだわり抜いた作品に出会うことができる。
・日本人の普段の生活にあるちょっとしたことを体験できる。
ことが基本となる。
したがって、小売店も訪日ゲスト向けの商品やサービスの提供などを
行ううえで、この3つの価値をふまえ、日本人の生活や歴史、文化に密接に
関係するものを提案することが必要となる。
また、販売員のホスピタリティにあれた接客自体が訪日ゲストにとっては
貴重な体験との観点もある。
【ホスピタリティとは】
接客・接遇の場面だけで発揮されるものではなく、人と人、人とモノ、
人と社会、人と自然などの関わりにおいて具現化されるものである。
狭義の定義では、人が人に対して行なういわゆる「もてなし」の行動や
考え方について触れていて、これは接客・接遇の場面でも使われるホス
ピタリティのことである。
主人と客人の間でホスピタリティが行き交うが、それは一方通行のもの
ではなく、主人が客人のために行なう行動に対して、それを受ける客人も
感謝の気持ちを持ち、客人が喜びを感じていることが主人に伝わることで、
共に喜びを共有するという関係が成立することが必要だ。
すなわち、ホスピタリティは両者の間に「相互満足」があってこそ成立
する。つまり、主客の両方がお互いに満足し、それによって信頼関係を
強め、共に価値を高めていく「共創」がホスピタリティにおける重要な
キーワードなのである。
広義の定義では、ホスピタリティが主人と客人の二者間の話にとどまら
ないことを言っている。社会全体に対して、その構成員である人々が、
ホスピタリティの精神を発揮することで、相互に満足感を得たり、助け
合ったり、共に何かを創りあげることができ、それによって社会が豊か
になっていくという大きな意味でもホスピタリティは重要である。
ホスピタリティは一般的にはサービスを提供する企業と、それを受け取る
顧客との領域で論じられることが多いが、決してそれだけにとどまるもの
ではない。
例えば企業活動においては、顧客以外のステークホルダーである従業員や、
地域社会に対してもホスピタリティを発揮することが大切で、それによって
社員の働きがいを高め、社員同士がチームとして創造性を高めたり、地域
社会との関係性を高めたりすることで好ましい経営環境をつくりあげる
ことができる。
この続きは、次回に。